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法規・コンプライアンス2026/3/3112分で読めます

化学物質のリスクアセスメント義務化|2024年改正安衛法の実務対応ガイド

化学物質リスクアセスメント安衛法改正義務化化学物質管理者

2024年4月1日、労働安全衛生法(安衛法)に基づく新たな化学物質規制が全面施行されました。最大の変化は、リスクアセスメントの実施が義務となる対象物質が大幅に拡大されたことです。改正前の674物質から、2024年4月時点で約903物質、2025年4月にはさらに約700物質が追加され、合計1,600物質超へと広がっています。あわせて、化学物質管理者の選任義務、ばく露濃度基準の遵守義務なども新設されました。「自社に関係する物質かどうかわからない」「何から手をつければよいか」と戸惑っている担当者の方に向けて、改正の概要から実務手順まで、一歩ずつ整理します。


目次

  1. 改正の概要:「自律的管理」への大転換
  2. 対象物質と対象事業者:自社への影響を確認する
  3. 実施手順:SDS確認からリスク低減措置・記録保管まで
  4. 化学物質管理者の選任:要件と役割
  5. ツールを活用した管理:デジタル記録で監査対応を効率化
  6. まとめ

1. 改正の概要:「自律的管理」への大転換 {#section1}

規制の考え方が根本から変わった

これまでの化学物質管理は、特定化学物質障害予防規則(特化則)や有機溶剤中毒予防規則(有機則)など、個別規制省令によって物質ごとに具体的な管理方法を定める「仕様規定型」でした。指定された設備を導入し、定められた手順を守れば、基本的には法令適合とみなされる仕組みです。

この方式の問題点は、規制対象外の物質については管理が事実上放置されがちだったことです。国内で流通している化学物質は数万種に上りますが、個別規制の対象はごく一部にとどまっていました。

改正後の骨格は「自律的管理」です。GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)分類で危険性・有害性が認められた物質について、事業者自らがリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいてリスク低減措置を講じることが求められます。「何をすべきか」を国が細かく指示するのではなく、「リスクを自社で評価・管理せよ」という方向への転換です。

2023年〜2026年の段階的施行

改正は一度に完結したわけではなく、複数のフェーズに分けて施行されています。

施行日 主な内容
2023年4月1日 ラベル・SDS義務の拡大(約2,900物質へ)、リスクアセスメント義務の一部開始
2024年4月1日 化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務、ばく露濃度基準の遵守義務、RAの全面義務化(約903物質)
2025年4月1日 RA対象物質がさらに約700物質追加(計1,600物質超)
2026年4月1日 追加物質が順次適用、計約2,300物質規模へ

2024年4月時点ですでに義務化されている事項への未対応は、行政指導や是正勧告の対象となりえます。まだ対応が済んでいない事業場は、早急に現状を把握し、優先順位をつけて取り組む必要があります。

「ばく露濃度基準値」の新設

自律的管理の核となる新概念のひとつが「ばく露濃度基準値」です。厚生労働大臣が定める基準値を超えて労働者を物質にばく露させてはならないとする義務が課されました。この基準値は今後も対象物質の追加・改定が行われる予定です。事業者には継続的なモニタリングが求められます。


2. 対象物質と対象事業者:自社への影響を確認する {#section2}

対象物質の確認方法

リスクアセスメントの実施が義務となる物質(リスクアセスメント対象物)は、安衛法施行令別表第9に掲載されています。厚生労働省が運営する「職場の化学物質管理総合サイト(ケミサポ)」では、最新の対象物質一覧が公開されており、物質名やCAS番号で検索することができます。

まず確認すべきは、自社で使用している原材料・副資材・洗浄剤・塗料・接着剤などのSDS(安全データシート)です。SDSの第1節には物質名・CAS番号が、第15節には法令上の規制情報が記載されています。この情報と対象物質リストを照合することで、自社が対象かどうかを判断できます。

混合物(製品)を取り扱う場合も対象となりえます。含有成分にリスクアセスメント対象物が含まれる場合、その混合物全体についてリスクアセスメントの実施義務が生じます。

対象事業者の範囲

業種・規模を問わず、リスクアセスメント対象物を「製造」または「取り扱う」すべての事業場が対象です。製造業だけでなく、サービス業や小売業であっても、対象物質を使用していれば適用されます。

ただし、以下の場合は適用除外とされています。

  • 一般消費者向けの市販製品をそのまま使用するだけの場合(開封・加工・希釈などをしない場合)
  • 密封された容器や製品を開封せずに取り扱う場合
  • 食品・医薬品・化粧品・農薬など、別の法令で安全性が担保されている場合

「うちは関係ない」と思い込まずに、現場で使用している全ての化学品のSDSを収集し、リスト化することが最初のステップです。


3. 実施手順:SDS確認からリスク低減措置・記録保管まで {#section3}

リスクアセスメントは、大きく4つのステップで進めます。

ステップ1:SDS確認と危険性・有害性の特定

最初に、取り扱う化学物質のSDSを入手し、内容を確認します。SDSには次の情報が記載されており、リスクアセスメントの出発点となります。

  • 第2節:危険有害性の要約(GHS分類結果)
  • 第8節:ばく露防止および保護措置(許容濃度・管理濃度・保護具の種類)
  • 第9節:物理的および化学的性質(蒸気圧・引火点など、ばく露推定に必要)
  • 第15節:適用法令(リスクアセスメント対象物に該当するかの確認)

SDSは製品ごと・バージョンごとに管理し、常に最新版を使用します。仕入先の変更や製品リニューアルに伴ってSDSが更新されることがあるため、定期的な入手・更新確認の仕組みを整えることが重要です。

ステップ2:ばく露評価(リスクの見積もり)

SDSで特定した危険性・有害性をもとに、実際の作業環境での労働者のばく露レベルを評価します。主な評価手法は以下の3種類です。

実測法:作業環境測定を実施し、作業環境中の気中濃度を測定して、ばく露濃度基準値または管理濃度と比較する方法です。定量性が高く、測定結果を記録として残せます。

推定法(CREATE-SIMPLE等):厚生労働省が提供する簡易推定ツール「CREATE-SIMPLE」や、国際的に利用される「コントロール・バンディング」などを用いて、実測をせずに気中濃度を推定する方法です。初期スクリーニングや、測定が困難な場合に適しています。

定性的リスク評価法:取扱量・揮発性・有害性の程度などの定性的情報を組み合わせてリスクのレベルを判断する方法で、小規模事業場での初期対応に向いています。

ばく露評価の結果に応じて、リスクを「許容可能なレベル」「改善が必要なレベル」「直ちに措置が必要なレベル」などに区分します。

ステップ3:リスク低減措置の検討と実施

リスクの見積もり結果に基づき、優先順位をつけてリスク低減措置を検討・実施します。措置の優先順位は法令上も明確で、以下の順に検討します。

  1. 危険性・有害性の高い物質を代替物質に変更する(根本的なリスク排除)
  2. 工学的対策:局所排気装置の設置・密閉化・作業自動化
  3. 管理的対策:作業手順の改善・教育・作業時間の短縮
  4. 保護具の使用:防毒マスク・保護手袋・保護眼鏡など

保護具は「最後の手段」という位置づけで、工学的対策・管理的対策を十分に講じたうえで補完的に用いることが原則です。保護具だけに頼った対応は、改正安衛法の趣旨に沿いません。

措置の実施後には、効果を再確認するための事後測定や評価を行い、必要があれば追加の措置を講じます。

ステップ4:記録の作成と保管・労働者への周知

リスクアセスメントの結果と実施した措置の内容は、文書(記録)として作成し保管します。保管期間は原則として3年間です。ただし、がん原性物質(厚生労働大臣が定める物質)については30年間の保管が義務付けられています。

記録に含めるべき主な内容は以下のとおりです。

  • 対象物質名と対象作業の内容
  • 特定した危険性・有害性の内容
  • リスクの見積もり結果(評価手法・結果・リスクレベル)
  • 実施したリスク低減措置の内容
  • 労働者のばく露状況

また、リスクアセスメントの結果と実施した措置の内容は、対象作業に従事する労働者に対して周知しなければなりません。周知の方法は、掲示・書面の配布・イントラネットへの掲載など、労働者が確認できる方法であれば構いません。


4. 化学物質管理者の選任:要件と役割 {#section4}

選任義務の概要

2024年4月1日から、リスクアセスメント対象物を製造または取り扱うすべての事業場(業種・規模を問わない)に対して、化学物質管理者の選任が義務付けられました。

選任すべき事由が発生してから14日以内に選任しなければなりません。対象事業場であることを確認したら、速やかに選任の手続きを進める必要があります。

資格要件

化学物質管理者の資格要件は、事業場の種別によって異なります。

リスクアセスメント対象物を製造する事業場(製造事業場)では、厚生労働大臣が定める「化学物質管理者専門的講習」(2日間コース)を修了した者を選任することが要件となります。この要件は必須であり、講習未修了者は選任できません。

リスクアセスメント対象物を取り扱うのみの事業場(取扱事業場)では、「化学物質管理者専門的講習」(1日間コース)を修了した者が望ましいとされますが、法令上の必須要件ではありません。ただし、実務上の知識・能力を担保するうえで、講習の受講を強く推奨します。

化学物質管理者は社内の人材から選任することが基本であり、外部への委託は認められていません。なお、製造と取扱いの両方を行う場合は、製造事業場の要件(2日間講習の修了)が適用されます。

主な職務内容

化学物質管理者は、化学物質の管理に係る技術的事項を統括する役割を担います。具体的な職務は次のとおりです。

  • ラベル・SDSの管理:ラベル表示の確認・SDS入手と更新管理・内容の従業員への周知
  • リスクアセスメントの実施管理:計画・実施・結果の評価・見直し
  • リスク低減措置の管理:措置の内容検討・実施確認・効果の評価
  • 記録の作成・保管・周知:法令に基づく記録の整備と管理
  • 労働災害発生時の対応:原因究明・再発防止措置の立案・関係機関への報告対応

化学物質管理者は、単に書類を管理するポジションではなく、現場の化学物質リスクをマネジメントする実務責任者です。安全衛生委員会や産業医と連携しながら、化学物質安全管理体制の中心を担う役割が期待されています。

保護具着用管理責任者の選任

同じく2024年4月から、リスクアセスメント対象物を取り扱う事業場には「保護具着用管理責任者」の選任も義務付けられました。防毒マスクや有機ガス用防護手袋など、適切な保護具の選定・着用指導・保守管理を担当する役割です。化学物質管理者と兼任することも可能です。


5. ツールを活用した管理:デジタル記録で監査対応を効率化 {#section5}

紙・Excelによる管理の限界

リスクアセスメントの実施記録、SDS台帳、リスク低減措置の対応状況、化学物質管理者の選任記録——これらをすべて紙やExcelで管理しようとすると、記録の散逸・更新漏れ・検索困難といった問題が生じがちです。

特に、物質の追加や作業変更が生じるたびにリスクアセスメントを見直す義務があるため、「いつ・どの物質について・どのような評価をしたか」というトレーサビリティの確保が重要になります。行政調査や社内監査の際に「記録が見つからない」「最新版がどれかわからない」という事態は、法令違反の疑義を生じさせる可能性があります。

デジタル化によるメリット

化学物質管理をデジタルツールで運用することで、次のようなメリットが得られます。

記録の一元管理:物質ごと・作業ごとのリスクアセスメント記録、SDS、措置の対応状況を一か所で管理でき、担当者が変わっても情報が継承されます。

リマインダーと更新管理:SDS改版の確認期限や、定期的なリスクアセスメントの見直し時期をシステムが通知する仕組みを設けることで、対応漏れを防ぐことができます。

監査・行政調査への迅速な対応:必要な記録を素早く検索・出力できるため、監査対応に要する工数を大幅に削減できます。

是正措置の進捗管理:リスク低減措置の担当者・期限・完了状況をシステムで管理することで、対応の進捗を可視化し、放置を防ぎます。

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6. まとめ {#section6}

2024年4月の安衛法改正により、化学物質のリスクアセスメントは「努力義務」から「法的義務」へと完全に移行しました。ポイントを整理すると、以下のとおりです。

  • 対象物質が急拡大:2024年4月に約903物質、2025年4月には1,600物質超へ。自社使用物質のSDSをもとに対象かどうかを確認することが第一歩
  • 実施手順は4ステップ:SDS確認による危険性特定 → ばく露評価 → リスク低減措置の実施 → 記録保管(原則3年・がん原性物質は30年)
  • 化学物質管理者の選任が必須:製造事業場は専門的講習(2日間)の修了者、取扱事業場は講習修了が推奨。14日以内に選任が必要
  • 記録と周知が重要:リスクアセスメントの結果と措置内容は文書化し、労働者に周知する義務がある

法令対応を「罰則を避けるためのもの」と捉えるのではなく、自社の化学物質リスクを正しく把握し、労働者の安全・健康を守るための経営課題として位置付けることが重要です。対応が遅れるほど、リスクとコストは増大します。

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参考資料

  • 厚生労働省「職場の化学物質管理総合サイト(ケミサポ)」cheminfo.johas.go.jp
  • 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:化学物質のリスクアセスメント実施支援」anzeninfo.mhlw.go.jp
  • 京都労働局「令和6年4月1日から新たな化学物質規制が全面施行されます」

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