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医療安全のインシデントレポート|病院で使えるRCA手法と報告の仕組み

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医療安全の基本は「ヒヤリハット→インシデント→アクシデント」という3段階の事象管理です。ハインリッヒの法則が示すように、1件の重大事故の背後には数百件の軽微な気づきが隠れています。小さな気づきを丁寧に報告・分析し、組織の仕組みを変えていくことが、患者の命を守る医療安全管理の根幹です。本記事では、病院の医療安全管理者が現場ですぐに活用できるインシデント分類・RCA手法・レポート書き方・分析ツールの選択まで、体系的に解説します。


1. 医療安全のインシデント分類:レベル0〜5の影響度

インシデントとアクシデントを「なんとなく重い・軽い」で仕分けていては、分析の優先度が定まりません。日本の医療現場では、日本医療機能評価機構が定める**影響度分類(レベル0〜5)**が広く採用されています。

影響度レベルの定義

レベル 区分 患者への影響
レベル0 ニアミス エラーや不具合はあったが、患者には実施されなかった
レベル1 インシデント 患者に実施されたが、影響なし(害なし)
レベル2 インシデント 観察の強化・念のための検査が必要だったが、処置・治療は不要
レベル3a インシデント 消毒・湿布・縫合・鎮痛剤投与など、簡単な処置・治療を要した
レベル3b アクシデント バイタルサインの高度変化・人工呼吸器装着・手術・入院延長など、濃厚な処置・治療を要した
レベル4a アクシデント 永続的な障害・後遺症が残ったが、有意な機能障害・美容上の問題は伴わない
レベル4b アクシデント 永続的な障害・後遺症が残り、有意な機能障害または美容上の問題を伴う
レベル5 アクシデント 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)

一般的にレベル0〜3a がインシデント、レベル3b〜5がアクシデントとして区分されます。レベル0のニアミスは患者への影響がない分、報告への心理的ハードルが低く、件数を積み上げやすい反面、軽視されがちです。しかし、ニアミスの積み重なりの中にこそ、将来のアクシデントの予兆が潜んでいます。

分類を活用した優先順位づけ

レベル3b以上の事例については、医療法施行規則の定めにより、医療安全管理委員会での詳細分析が求められます。レベル3a以下の件数が多い部署や業務は、潜在リスクが高い可能性があり、定期的な傾向分析の対象とすることが有効です。レベルを統一した基準で運用することで、部署間・時期間の比較が可能になります。


2. RCA(根本原因分析)の医療版:ImSAFERモデルの活用

医療安全の分野でRCA(Root Cause Analysis:根本原因分析)といえば、**ImSAFER(アイエムセーファー)**が代表的なモデルです。自治医科大学の河野龍太郎氏が、原子力産業向けの「H2-SAFER」を医療現場向けに再設計したもので、現場スタッフが比較的手軽に実施できるよう7つのステップで構成されています。

ImSAFERの7ステップ

ステップ 内容
I Identify the problem(問題の特定)
m map the events(事象の時系列整理)
S Search for root causes(根本原因の探索)
A Analyse contributing factors(背後要因の分析)
F Find solutions(対策の立案)
E Execute the plan(対策の実施)
R Review effectiveness(効果の確認)

最大の特徴は、Sのステップで「P-mSHELL」モデルを用いた背後要因探索を行う点です。P-mSHELLは、航空業界のSHELLモデルを医療向けに拡張したもので、Patient(患者)・Management(管理)・Software(手順書)・Hardware(機器)・Environment(環境)・Liveware(当事者・周囲のスタッフ)という7つの視点から要因を網羅的に洗い出します。

なぜImSAFERが医療現場に合うのか

従来のなぜなぜ分析だけでは「なぜ確認しなかったのか」という問いが「注意が足りなかった」という個人責任に帰結しがちです。ImSAFERは最初から組織・環境・仕組みに視野を広げる構造になっているため、個人を責めず、システムの問題を特定するブレームレス文化と親和性が高いです。

ImSAFER実施の体制づくり

ImSAFERは、医療安全管理者が中心となり、当事者・部署管理者・多職種メンバーを交えたチームで実施するのが基本です。分析対象はレベル3b以上のアクシデントを優先し、週1回の医療安全委員会や月次の分析会議と連動させると定着しやすくなります。


3. インシデントレポートの書き方:WHO推奨フォーマットと記入のコツ

インシデントレポートは「事実を記録するもの」であり、個人の責任を追及するものではありません。WHO(世界保健機関)が策定した患者安全関連の国際基準では、報告フォームに含めるべき基本項目として以下が挙げられています。

WHO推奨の基本記載項目

項目 記載内容
発生日時・場所 いつ、どの部署・病室で起きたか
発見者・当事者 誰が発見し、誰が関わったか(氏名でなく職種・役割でも可)
患者情報 年齢・性別・主疾患・入院期間など関連する属性
事象の記述 何が起きたか(5W1Hで事実のみを簡潔に)
患者への影響 影響度レベル(0〜5)の判定と具体的な影響内容
即時対応 発見後にとった応急処置・上長への報告など
推定される要因 当事者が感じた要因(分析はあとで行う)

記入でよくある失敗と対処法

失敗1:主観・推測を事実のように書く 「確認を怠った」「ミスをした」は個人の評価であり、事実ではありません。「Aという手順を行わなかった」「Bの確認ステップが省略された」という行動ベースの記述に変えましょう。

失敗2:原因欄に「注意不足」とだけ書く 原因欄はあくまでも「気づきのメモ」として活用します。「なぜ注意が足りなかったのか」の掘り下げは、インシデントレポートではなくRCA分析の場で行います。報告書には「何が起きたか」の事実を書き、「なぜ」は分析会議に委ねる分業を徹底することで、報告のハードルが下がります。

失敗3:書くのが遅い 記憶が鮮明なうちに記録することが原則です。発生から24時間以内の一次報告を義務づけ、詳細は48〜72時間以内に補足する二段階方式が現実的です。QRコードを活用したスマートフォン報告を導入する施設も増えており、現場でその場で入力できる環境が報告件数の向上につながっています。

対策案をAIで考えてみよう

ここまでの解説を踏まえて、AIによる対策案生成を体験してみましょう。事象を入力するだけで、AIが即時対策と恒久対策を提案します。

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4. 分析手法:なぜなぜ分析×SHELLモデルの組み合わせ

なぜなぜ分析(5Why分析)とSHELLモデルはそれぞれ異なる強みを持ちます。この2つを組み合わせることで、医療事故の背後にある多層的な原因を漏れなく掘り下げることができます。

なぜなぜ分析の役割

なぜなぜ分析は、一つの事象に対して「なぜ?」を4〜5回繰り返し、表面的な原因から根本原因へと掘り下げていく手法です。医療現場では次の点に注意が必要です。

  • 「なぜ」の答えが人の性格・意欲に向かったとき(「うっかりしていたから」など)は、一段階戻って「なぜそのような状況が生まれたか」に切り替える
  • 「なぜ」の連鎖が途中で分岐する場合は、それぞれの枝を並行して追う(ツリー構造での管理が有効)
  • 最終的に「仕組み・プロセス・環境の問題」にたどり着くことを目標とする

SHELLモデルの役割

SHELLモデル(医療版はP-mSHELL)は、インシデントに関わる要因を7つのカテゴリで網羅的に洗い出す「要因マップ」の役割を担います。なぜなぜ分析が「縦の深掘り」であるのに対し、SHELLモデルは「横の広がり」を担当します。

二段構えの実践手順

  1. SHELLモデルで要因を広く洗い出す:P・m・S・H・E・L(当事者)・L(周囲)の各カテゴリについて、今回のインシデントに関連する要因をブレインストーミング形式で列挙します。
  2. 優先要因を絞り込む:洗い出した要因のうち、「このインシデントに特に強く関与した」と判断される要因を2〜3件選びます。
  3. 選んだ要因になぜなぜ分析を適用する:各要因に対して「なぜそうなったのか」を4〜5回繰り返し、根本原因を特定します。
  4. 根本原因に対して対策を立案する:対策は「設備・環境改善」「手順書・マニュアル改訂」「教育・研修」「管理体制の見直し」の4種類に分類して整理します。

この流れはImSAFERのステップS〜Fと対応しており、組み合わせて使うことで分析の質と効率が高まります。


5. デジタル化の効果:レポート入力→自動分類→傾向分析

紙のインシデントレポートは、記入・集計・分析にかかる手作業が多く、月次の安全委員会まで情報が共有されないケースが少なくありません。デジタル化により、このプロセスが大きく変わります。

デジタル化がもたらす3つの変化

変化1:報告のタイムラグをなくす スマートフォンやタブレットからQRコードを読み取るだけで報告画面にアクセスできる環境を整えると、現場でその場に即時報告できます。報告から管理者確認までのリードタイムが「数日」から「数時間」に短縮されます。

変化2:自動分類で分析準備を効率化する デジタルシステムでは、報告入力時に「事象カテゴリ」「発生部署」「影響度レベル」などを選択式で入力させることで、集計・分類が自動化されます。AIが報告文から事象カテゴリを推定する機能を持つシステムも登場しており、管理者の仕分け作業が大幅に削減されます。

変化3:傾向分析でリスクを先読みする 蓄積されたデータをグラフ・ヒートマップ・クロス集計で可視化することで、「特定の時間帯に転倒が集中している」「夜勤帯の投薬ミスが増加傾向にある」といったパターンが浮かび上がります。傾向が見えれば、重大事故が起きる前に先手を打つ対策が可能になります。

AI支援RCAとの連携

デジタル化の次のステップとして注目されているのが、インシデントレポートのデータをRCA分析に直接連携させる仕組みです。報告データをAIが解析してなぜなぜ分析の起点となる「仮説」を提示したり、過去の類似事例を参照して要因候補を提案したりする機能は、分析担当者の経験や知識の差を補い、分析の質を組織全体で底上げします。

WhyTrace Plus は、SHELLフレームワーク・AI支援の5Why分析・QRコードによる現場報告を一体化したAI根本原因分析プラットフォームです。インシデントレポートの入力から根本原因の特定・対策管理まで一気通貫で管理でき、分析ナレッジを組織全体のデータベースとして蓄積できます。医療安全管理に関心のある方は、ぜひ whytrace.com でその仕組みをご確認ください。


まとめ

医療安全のインシデントレポートと根本原因分析を実効的に運用するためのポイントを振り返ります。

  • インシデントのレベル分類(0〜5)を統一することで、分析の優先度を客観的に判断できます。レベル0のニアミスを含めて報告件数を積み上げることが、重大事故予防の第一歩です。
  • ImSAFERモデルは、医療現場向けに設計された7ステップのRCA手法です。P-mSHELLによる要因探索を組み込むことで、個人責任に陥らないシステム分析が実現します。
  • WHO推奨フォーマットに沿った報告書は、事実の記述と原因の分離が鍵です。「何が起きたか」を報告書に、「なぜ起きたか」を分析会議に委ねる分業で、報告のハードルを下げられます。
  • なぜなぜ分析×SHELLモデルの二段構えで、縦の深掘りと横の広がりを両立させた要因分析ができます。最終的に「仕組み・環境の改善」に落とし込むことが継続的な安全向上につながります。
  • デジタル化と自動分類・傾向分析により、月次集計の遅延をなくし、リスクの先読み対応が可能になります。AIとRCA分析の連携は、分析の質の組織的な底上げを実現します。

インシデントレポートは、現場スタッフが安全のために声を上げる文化の表れです。報告しやすい仕組みと、報告が確実に分析・改善につながるプロセスを整えることが、医療安全管理者の重要な役割です。


よくある質問(FAQ)

Q1. インシデントレポートの報告件数が少ない場合、まず何をすればよいですか?

報告が少ない主な原因は「報告しても変わらない」「責められる恐怖」という心理的障壁です。まず「報告は個人の責任追及には使わない」という方針を組織として明文化し、報告者へのフィードバック(「報告を受けて、こう改善しました」という情報共有)を仕組みとして組み込むことから始めましょう。

Q2. ImSAFERとRCAは何が違うのですか?

RCAは根本原因分析全般を指す概念であり、ImSAFERはその具体的な実施方法の一つです。ImSAFERは医療向けに設計された7ステップの実践フレームワークで、P-mSHELLモデルを組み込んだ構造が特徴です。ImSAFERはRCAの「医療現場版の実践ガイド」と理解すると分かりやすいです。

Q3. なぜなぜ分析は何回「なぜ」を繰り返せばよいですか?

「5回」はあくまでも目安です。3回で根本原因に到達することもあれば、6回以上必要な場合もあります。「仕組み・プロセス・環境の問題として対策が立てられる原因にたどり着いたか」を判断基準にしてください。回数よりも、対策可能なレベルまで掘り下げることを目標としましょう。

Q4. インシデントレポートのデジタル化で最初に整えるべき点はどこですか?

入力フォームの設計が最重要です。項目が多すぎると報告が面倒になり、件数が増えません。「発生日時・場所・事象の概要・影響度レベル」の4項目を最低限として設定し、詳細情報は必要に応じて後から補足できる構造にすることをおすすめします。QRコードによるスマートフォン入力は、現場での即時報告を促す効果があります。

Q5. 対策を立案した後、効果をどう評価すればよいですか?

対策実施から3〜6か月後に「同種のインシデントが減少したか」「類似の要因が他のレポートに登場しているか」をデータで確認します。ImSAFERのステップR(Review effectiveness)に相当します。効果が不十分であれば、根本原因の特定が浅かった可能性があり、分析を再実施する判断が必要です。

Sources:


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