2026年度 労働災害統計まとめ|死亡事故の傾向と業種別対策
「自社の災害は減っているのか、それとも全国の流れに逆らえていないのか」。安全担当者なら誰もが抱く問いである。感覚で語る安全活動には限界があり、対策の優先順位を決めるには全国統計という物差しが欠かせない。
本記事では、厚生労働省が公表した最新の労働災害統計(令和6年確定値、2026年時点で参照可能な最新値)をもとに、死亡災害・死傷災害の全体像と業種別の傾向を整理する。そのうえで、数字の裏にある構造変化——転倒の増加と労働力の高年齢化——を踏まえ、自社の安全計画に落とし込むための実務的な対策まで解説する。
1. 労働災害統計の全体像とは|死亡は過去最少、死傷は増加
労働災害統計とは、労働基準監督署への報告等をもとに厚生労働省が毎年集計・公表する全国の災害発生データである。死亡者数と休業4日以上の死傷者数を主軸に、業種別・事故型別・年齢別の内訳が示される。
最新の令和6年確定値(2026年時点で最新)では、安全管理上きわめて重要な「ねじれ」が生じている。
- 死亡者数:746人(前年755人から9人・1.2%減少し、過去最少)
- 休業4日以上の死傷者数:135,718人(前年比347人増で、4年連続の増加)
死亡は減り続ける一方、けがを含む全体の災害件数は増え続けている。重篤災害の防止策は一定の成果を上げつつも、現場全体での「軽〜中程度の災害」は歯止めがかかっていない、という構図である(出典:厚生労働省 令和6年の労働災害発生状況を公表、新型コロナ感染症によるものを除く)。
この一点だけでも、安全活動の重点が見えてくる。死亡災害ゼロを達成している現場でも、死傷災害の母数を放置すれば、いずれ重篤災害に転化するリスクを抱えたままになる。
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2. 死亡災害の事故型別傾向とは|墜落・転落が最多
事故型別の傾向とは、災害を「どのように被災したか」で分類した内訳のことである。対策の方向性を決める最重要の切り口になる。
令和6年の死亡災害を事故型別に見ると、上位は次のとおりである。
| 事故の型 | 死亡者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 墜落・転落 | 188人 | 16人減(7.8%減) |
| 交通事故(道路) | 123人 | 25人減(16.9%減) |
| はさまれ・巻き込まれ | 110人 | 2人増(1.9%増) |
最大の死因は依然として墜落・転落である。高所作業を抱える建設業・製造業では、ここが対策の一丁目一番地になる。前年比では減少したものの、絶対数で突出しており、安全帯(墜落制止用器具)の確実な使用と足場の点検が引き続き最優先テーマであることに変わりはない。
注目すべきははさまれ・巻き込まれの微増である。交通事故・墜落が減少傾向にあるなか、機械設備に起因するこの類型だけが増えている。設備の起動・停止管理(ロックアウト・タグアウト)や、開口部・回転体への接近防止が、見落とされがちな盲点になっている可能性が高い。
自社の事故型を全国分布と照合する
統計の使い方として有効なのが、自社の過去災害を同じ事故型分類で集計し、全国分布と重ねる方法である。全国では墜落・転落が首位でも、自社では「はさまれ」や「転倒」が突出していることは珍しくない。全国平均に引きずられず、自社固有のリスクプロファイルを把握することが、限られた安全予算の配分を最適化する。
3. 業種別の死亡災害とは|建設業が最多、製造業が続く
業種別の傾向とは、どの産業で重篤災害が集中しているかを示す内訳である。死亡災害は特定業種への偏りが大きい。
令和6年の業種別死亡者数は以下のとおりである。
| 業種 | 死亡者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 建設業 | 232人 | 9人増(4.0%増) |
| 製造業 | 142人 | 4人増(2.9%増) |
| 陸上貨物運送事業 | 108人 | 2人減(1.8%減) |
| 商業 | 55人 | 17人減(23.6%減) |
全体の死亡者数が過去最少を更新するなかで、建設業と製造業は前年から増加している点が見逃せない。死亡災害の約半数を建設業・製造業が占める構造は長年変わっておらず、この2業種への対策強化が全国の死亡災害を押し下げる鍵を握る。
建設業:墜落・転落と一人親方の課題
建設業の死亡災害は墜落・転落が中心であり、足場・屋根・はしご等からの転落が後を絶たない。加えて、元請・下請が混在する重層構造のなかで、安全情報が現場全体に行き渡らない構造的な弱点がある。協力会社を横断した危険情報の共有が、業種特性に応じた重点対策になる。
製造業:はさまれ・巻き込まれの恒久対策
製造業では機械によるはさまれ・巻き込まれが死亡災害の主因である。「掃除・修理・調整のために安全カバーを外した瞬間」に被災する事例が典型で、設備停止の確認手順が形骸化していないかが問われる。なぜその手順が省略されるのかを掘り下げる根本原因分析が、再発防止には不可欠である。
4. 死傷災害の傾向とは|第三次産業と転倒の増加
死傷災害とは、死亡に至らなかったものを含む休業4日以上の災害全体を指す。件数の母数が大きく、現場の安全水準を映す指標になる。
令和6年の死傷災害(135,718人、4年連続増加)を業種別に見ると、第三次産業の比重が高まっている。
| 業種 | 死傷者数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 第三次産業 | 約70,916人 | 約52.3% |
| 製造業 | 26,676人 | 約19.7% |
| 陸上貨物運送事業 | 16,292人 | 約12.0% |
| 建設業 | 13,849人 | 約10.2% |
死亡災害では建設業・製造業が目立つが、死傷災害では第三次産業(小売・飲食・介護・保健衛生など)が全体の半数以上を占める。製造業・建設業のような伝統的な「危険業種」ではない職場で、けがが増え続けているのが近年の特徴である。
その中身を象徴するのが転倒災害だ。令和6年の転倒は36,378人(前年比320人・0.9%増)で、事故型別では最多規模に達している(出典:厚生労働省 令和6年の労働災害発生状況を公表)。死亡には直結しにくいが、骨折等で長期休業に至りやすく、第三次産業の死傷者数を押し上げている。
「転ぶくらい」と軽視されがちな転倒こそ、件数ベースでは最大の経営課題になりつつある。床面の段差・濡れ・通路の障害物といった環境要因の改善と、急がせない作業設計が対策の中心になる。
5. 統計から読む構造変化とは|労働力の高年齢化
構造変化とは、単年度の増減ではなく、複数年にわたって統計の背景を動かしている要因のことである。近年の労災統計を語るうえで避けて通れないのが労働力の高年齢化である。
令和6年の統計では、60歳以上の死傷年千人率は4.00と、若年層に比べて高い水準にある(出典:厚生労働省 令和6年の労働災害発生状況を公表)。加齢に伴う身体機能の変化——平衡感覚やとっさの反応の低下——が、前述の転倒災害の増加と密接に結びついている。
国の対策方針もこの構造を直視している。2023年度から始まった第14次労働災害防止計画(2026年時点で計画期間中)では、
- 増加が見込まれる転倒の年齢層別死傷年千人率の増加に歯止めをかける
- 増加が見込まれる60歳代以上の死傷年千人率の増加に歯止めをかける
ことが明確な目標として掲げられている(出典:厚生労働省 第14次労働災害防止計画)。
つまり、転倒対策と高年齢労働者対策は、いまや「あれば望ましい施策」ではなく、国の計画に沿った重点必須テーマになっている。具体策としては、
- 床面・通路の段差解消と滑り防止、十分な照度の確保
- 重量物取り扱いの分割・補助具導入による身体負荷の軽減
- 体力チェックや健康状態に応じた配置(エイジフレンドリーな職場設計)
といった環境・作業設計の見直しが効果を発揮する。
ここまで全国の数字を見てきたが、統計は「全国がこうだから自社もこうすべき」を教えてはくれない。重要なのは、自社の災害がなぜ起きたのかを一件ずつ掘り下げ、再発を断つことである。
課題:災害報告書は溜まっていくのに、原因分析が「作業者の不注意」で止まり、対策が定着しない。 解決:WhyTrace Plus なら、発生した災害・ヒヤリハットを登録するだけで、AIが「なぜ?」を対話形式で深掘りし、根本原因をツリー図で可視化する。表面的な原因で終わらせず、設備・手順・教育のどこに穴があるのかを構造的に特定できる。
6. 統計を自社の安全計画に活かす方法とは|3つの実務ステップ
統計の活用とは、全国データを自社の意思決定の根拠に変換する作業である。眺めて終わらせず、次の3ステップで安全計画に落とし込む。
ステップ1:自社データを全国分類に揃える
まず、自社の過去災害とヒヤリハットを、全国統計と同じ事故型(墜落・転落/はさまれ・巻き込まれ/転倒など)と業種・年齢の軸で集計する。分類を統一しないと比較ができない。Excelの個別管理では集計のたびに手作業が発生するため、報告時点でタグ分類が完結する仕組みを整えると運用が回りやすい。
ステップ2:全国比でギャップを特定する
自社の事故型分布と全国分布を重ね、全国より突出している類型を洗い出す。たとえば全国では墜落・転落が首位でも、自社では転倒が全国比で多ければ、そこに自社固有のリスクが潜んでいる。ギャップの大きい類型こそ、限られた予算を投下すべき優先対象である。
ステップ3:上位リスクを根本原因まで掘り下げる
特定した上位リスクについて、代表事例をなぜなぜ分析で深掘りする。「転倒が多い」で止めず、「なぜその通路で転ぶのか」「なぜ濡れた床が放置されるのか」を4〜5回掘り下げ、清掃手順・照明・動線設計といった真因にたどり着く。分析結果は組織のナレッジとして蓄積し、同種災害の横展開防止に使う。
この一連の流れを社内に定着させたい場合は、初心者でもできるなぜなぜ分析の始め方に通じるハインリッヒの法則の考え方——重篤災害の背後にある多数の軽微な災害・ヒヤリハットを潰す——が下敷きになる。あわせてヒヤリハット活動の事例集の業種別の取り組みも、自社設計のヒントになる。
よくある質問(FAQ)
Q. 労働災害統計の最新値はどこで確認できますか?
厚生労働省の「労働災害発生状況」のページと「職場のあんぜんサイト」で公表される。確定値は例年、翌年の5月頃に公開され、2026年時点では令和6年(2024年1月〜12月)の確定値が最新である。死亡者数・死傷者数・業種別・事故型別の内訳まで確認できる。
Q. 死亡災害が減っているのに死傷災害が増えているのはなぜですか?
重篤災害を防ぐ安全帯使用や設備対策が一定の成果を上げる一方、第三次産業の拡大と労働力の高年齢化により、転倒など軽〜中程度の災害が増えているためである。死亡が過去最少でも、死傷の母数が増え続ければ重篤災害への転化リスクは残る。
Q. 死亡災害が最も多い業種はどこですか?
令和6年の確定値では建設業が232人で最多、次いで製造業142人、陸上貨物運送事業108人と続く。建設業は墜落・転落、製造業ははさまれ・巻き込まれが死亡災害の主因となっている。
Q. 転倒災害が増えているのはなぜですか?
第三次産業の従事者増加と労働力の高年齢化が背景にある。加齢による平衡感覚・反応速度の低下が転倒リスクを高めており、第14次労働災害防止計画でも転倒と60歳代以上の死傷年千人率に歯止めをかけることが目標とされている。床面・通路の環境改善が有効である。
Q. 全国統計を自社の安全活動にどう使えばよいですか?
自社の災害を全国と同じ事故型・業種・年齢の分類で集計し、全国比で突出している類型を特定するのが第一歩である。そのうえで上位リスクの代表事例を根本原因分析で掘り下げ、真因に対策を打つことで、限られた予算を効果的に配分できる。
まとめ
最新の労働災害統計(令和6年確定値、2026年時点)が示すのは、「死亡は減るが死傷は増える」という非対称な現実である。
- 死亡災害:746人で過去最少。事故型は墜落・転落が最多、業種は建設業・製造業が依然として中心。
- 死傷災害:135,718人で4年連続増加。第三次産業が半数超を占め、転倒が件数ベースで最大規模。
- 構造変化:労働力の高年齢化が転倒増の背景にあり、第14次労働災害防止計画でも重点目標化されている。
統計は「全国の物差し」であって、自社の答えそのものではない。自社データを全国分類に揃え、全国比で突出した類型を特定し、上位リスクを根本原因まで掘り下げる——この3ステップで初めて、統計は安全計画を動かす根拠に変わる。数字を眺めるだけで終わらせず、一件ごとの「なぜ」を断つ仕組みづくりに踏み出してほしい。
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Sources:
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著者
國分 良太
制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門
製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。
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