プレス機の挟まれ・巻き込まれ災害を防ぐ|安全装置とリスクアセスメントの実務
プレス機は金属を一瞬で成形する強大な力を持つ。その力が人体に向いたとき、結果は重大災害に直結する。指の切断、手の挟まれ、最悪の場合は死亡——プレス災害は「ヒヤリ」では済まないことが多い。
製造現場の安全担当者にとって、プレス機の挟まれ・巻き込まれ対策は避けて通れないテーマである。ところが、安全装置を付けているのに災害が起きる、リスクアセスメントが形骸化している、といった悩みを抱える現場は少なくない。本記事では、動力プレスの安全装置の種類と選び方、労働安全衛生規則の要点、リスクアセスメントの実務、そして災害が起きてしまった際の根本原因分析まで、プレス単一の論点に絞って深掘りする。
プレス災害の多くは「装置を付けたつもり」で防げると考えた瞬間に起きる。本当に防ぐには、なぜその危険が残ったのかを掘り下げる仕組みが必要だ。WhyTrace Plus はその根本原因分析をAIで支援する。
1. プレス機の挟まれ・巻き込まれ災害の実態
プレス機の挟まれ・巻き込まれ災害とは、スライド(上型)の下降や材料の送り機構に身体の一部が巻き込まれることで生じる労働災害である。製造業の災害類型のなかでも、発生頻度と重篤度の両方が高い点に特徴がある。
厚生労働省の労働災害発生状況によれば、2023年度の製造業における「はさまれ・巻き込まれ」は6,377件で、製造業の事故の型別では第1位を占めた。さらに、2021年度のデータでは、死傷者全体(休業4日以上)149,918人のうち「はさまれ・巻き込まれ」が約14,020人で全体の約9%を占め、死亡災害867人のうち135人(約16%)がこの類型だった(2026年時点。出典:厚生労働省 労働災害発生状況)。
この数字が示すのは、はさまれ・巻き込まれが「件数も多く、死亡率も高い」二重に危険な災害類型だということである。プレス機はその典型的な発生源だ。
プレス災害が起きる典型シーン
プレス災害は、決まったパターンで繰り返される。
| 発生シーン | 危険のメカニズム |
|---|---|
| 材料の挿入・取り出し | 手を金型内に入れたまま、誤ってスライドが下降する |
| 切替・段取り作業 | 安全装置を一時的に無効化して調整中に作動する |
| 異常停止後の復旧 | 詰まった材料を取り除く際に予期せず再起動する |
| 連続運転中の介入 | 流れ作業のリズムで手を入れたタイミングと下降が重なる |
いずれも「金型の危険限界(スライドが下降する範囲)に身体が入る」という共通点がある。安全対策の本質は、この危険限界に人体が入らないようにすること、もしくは入っている間はスライドが動かないようにすることに尽きる。
2. 動力プレスの安全装置の種類と選び方
動力プレスの安全装置とは、作業者の身体が金型の危険限界に入ることを防ぐ、または危険限界に入っている間にスライドを停止・抑制する機構である。労働安全衛生規則およびプレス機械又はシャーの安全装置構造規格によって、種類ごとに要件が定められている。
主な安全装置は次のとおりである。
| 安全装置 | 原理 | 適した作業 |
|---|---|---|
| 安全囲い・固定ガード | 危険限界を物理的に覆い、手が入らない構造にする | 自動送り・専用機 |
| 両手操作式 | 左右の操作部を同時に押さないとスライドが作動しない | 手で材料を保持する作業 |
| 光線式(光電式) | 投光・受光のセンサーで進入を検知し作動を停止 | 開口部が広く手作業が多い工程 |
| インターロックガード式 | ガードが閉じないとスライドが起動しない | ガード開閉を伴う作業 |
| 手引き式・手払い式 | スライド下降に連動して手を危険限界外へ引く/払う | 旧型機・補助的用途 |
両手操作式安全装置では、左右の操作の時間差が0.5秒を超えるとスライドが作動しない構造であることが構造規格上の要件とされている(2026年時点。出典:プレス機械又はシャーの安全装置構造規格 安全衛生情報センター)。これは片手で操作部を固定し、もう一方の手を金型に入れるという危険な操作を防ぐための設計思想である。
選び方の優先順位
安全装置は「付ければよい」ものではない。作業の性質に合っていなければ、現場は装置を無効化してしまう。
優先順位の考え方はこうだ。まず、本質安全——自動送り化や安全囲いで、そもそも人が危険限界に入らない構造にできないかを検討する。次に、それが難しい手作業工程では光線式やインターロックガード式で進入を検知・遮断する。両手操作式は有効だが、作業者が複数いる場合や材料保持が必要な場合に限界がある点を理解して選ぶ。手引き式・手払い式は補助的な位置づけで、これ単独に頼る設計は避けるべきだ。
重要なのは、作業実態を観察してから装置を決めることである。段取り替えの頻度、材料の大きさ、作業者の人数——これらを無視した装置は形骸化する。
3. プレス作業に関わる労働安全衛生規則の要点
プレス機の安全に関する法令の根幹は、労働安全衛生規則の第131条にある。これは、プレス機械およびシャーについて、作業者の身体の一部が危険限界に入らないよう安全囲いを設けること、または安全装置を取り付けることを事業者に義務づける規定である。
法令上の主な義務を整理すると次のようになる。
- 安全囲い・安全装置の設置義務(安衛則第131条):危険限界への身体の進入を防ぐ措置を講じる
- 作業主任者の選任:動力プレス5台以上を有する事業場では、プレス機械作業主任者技能講習を修了した者から作業主任者を選任する
- 定期自主検査:動力プレスは1年以内ごとに1回の定期自主検査の対象となる
- 特別教育:動力プレスの金型・シヤーの刃部などの安全装置の取付け・調整業務には特別教育が必要
- 構造規格適合:使用する安全装置は構造規格に適合したものでなければならない
2026年時点では、機械による労働災害防止対策を強化する観点から労働安全衛生規則の改正も行われており、機械の起動・停止に関する措置が整理されている(出典:厚生労働省 労働安全衛生規則改正パンフレット)。
法令は「最低基準」である点を忘れてはならない。規則を満たしていても災害は起きる。だからこそ、次に述べるリスクアセスメントによって、自社の作業実態に即した上乗せの対策を設計する必要がある。
4. プレス工程のリスクアセスメントの進め方
リスクアセスメントとは、作業に潜む危険性・有害性を洗い出し、リスクの大きさを見積もって優先順位をつけ、低減措置を講じる一連の手続きである。プレス工程では、危険源が明確なぶん、見積もりと対策の優先順位づけが効果を発揮しやすい。
進め方の5ステップ
- 危険源の特定:金型の危険限界、送り機構、排出口など、はさまれ・巻き込まれの起点を作業ステップごとに洗い出す。段取り替え・復旧作業も忘れず対象にする。
- リスクの見積もり:「危害のひどさ(重篤度)」×「発生の可能性(頻度・確率)」でリスクを点数化する。プレスのはさまれは重篤度が高くなるため、可能性が低くても上位に来やすい。
- 優先度の決定:点数の高い危険源から対策する。重篤度が「死亡・障害」レベルのものは、頻度が低くても最優先扱いとする。
- リスク低減措置の検討:本質安全(設計・自動化)→ 工学的対策(安全装置)→ 管理的対策(手順・教育)→ 保護具、の優先順位(リスク低減措置の優先順位)で対策を選ぶ。
- 記録と見直し:実施内容と残留リスクを記録し、設備変更・災害発生時に再評価する。
リスク見積もりの例
プレス工程の「材料取り出し時の手の挟まれ」を見積もる場合を考える。
| 評価項目 | 評価 | 根拠 |
|---|---|---|
| 危害のひどさ | 重大(手指の切断・障害) | プレスの加圧力は人体を切断しうる |
| 発生の可能性 | 中(1日数百回の手作業介入) | 流れ作業で介入頻度が高い |
| リスクレベル | 高(最優先で対策) | 重篤度の高さが決定要因 |
この見積もりから、「光線式安全装置の設置(工学的対策)」を第一候補とし、補助的に「取り出し用治具の導入で手を金型に入れない作業方法(本質安全寄り)」を組み合わせる、という対策設計につながる。
リスクアセスメントの手法全般は、姉妹サービスの解説も参考になる。リスクアセスメントの実践ガイド(GenbaCompass)で進め方の基本を確認できる。
対策案をAIで考えてみよう
プレス工程で洗い出したはさまれ・巻き込まれリスクに対し、どんな即時対策と恒久対策が打てるか——AIに考えさせてみよう。発生した事象や懸念を入力するだけで、AIが対策案を提案する。
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5. プレス災害の根本原因分析――なぜ装置があっても起きるのか
根本原因分析とは、災害やヒヤリハットの表面的な要因の奥にある「真の原因」を掘り下げ、再発防止につなげる手法である。プレス災害では「作業者の不注意」で片づけられがちだが、それでは再発を止められない。
「不注意」で止めない掘り下げ
たとえば「材料取り出し中に手を挟まれた」という災害を、なぜなぜ分析で掘り下げてみる。
- なぜ手を挟まれたか → スライドが下降したときに手が金型内にあった
- なぜ手が金型内にあったか → 材料を素早く取り出すため手を入れていた
- なぜ手を入れる必要があったか → 取り出し治具がなく、手作業でしか取れない
- なぜ治具がないか → 多品種少量で治具製作の優先度が低いと判断されていた
- なぜ光線式安全装置が作動しなかったか → 生産効率を理由に感度を下げる設定変更が黙認されていた
ここまで掘ると、「不注意」ではなく「治具の不在」と「安全装置の運用ルールの形骸化」という組織的な根本原因が見えてくる。対策も「気をつける」ではなく、「治具の整備」「安全装置の設定変更を管理する仕組み」という実効性のあるものになる。
装置の無効化が起きる構造
プレス災害で繰り返し指摘されるのが、安全装置の意図的・慣習的な無効化である。生産効率や段取りの手間を理由に、光線を回避する、両手操作を片手で固定する、ガードを開けたまま運転する——こうした逸脱は、個人の問題ではなく「正規の手順では生産が回らない」という構造的な矛盾の表れであることが多い。
根本原因分析を組織で回すと、この矛盾が可視化される。安全と生産の両立を、現場任せにせず仕組みで解決する糸口になる。
プレス災害の「なぜ」を、Excelの横並び表ではなくAIとツリー図で掘り下げませんか?
「作業者の不注意」で終わる分析からは、再発防止策は生まれない。WhyTrace Plus は、はさまれ・巻き込まれ災害の事象を入力すると、AIが「なぜ?」を対話形式で深掘りし、因果関係をツリー図で可視化する根本原因分析プラットフォームである。分析結果を組織のナレッジとして蓄積し、似た災害の再発を防ぐ基盤になる。
6. 製造現場で実装するプレス安全の運用ルール
安全装置とリスクアセスメントを「動かし続ける」には、日常運用のルールが要る。設備対策だけでは時間とともに形骸化するからだ。
実装すべき運用ルールを整理する。
- 始業前点検の標準化:光線式の遮光テスト、両手操作の同時性、非常停止の動作を毎朝チェックリストで確認する
- 段取り替え時の安全手順:金型交換・調整時は電源遮断(ロックアウト・タグアウト)を徹底し、装置無効化中の単独作業を禁止する
- 異常復旧の手順固定:材料詰まりの除去は必ず停止・施錠してから行う手順を掲示する
- 設定変更の管理:安全装置の感度・モードの変更を権限者の承認制とし、変更履歴を残す
- ヒヤリハットの収集と分析:はさまれ寸前の事例を集め、災害化する前に対策へつなげる
特に最後のヒヤリハット収集は重要だ。プレスの重大災害の手前には、多数の「手を入れかけた」「装置が一瞬止まった」というニアミスが存在する。これを拾い、根本原因まで掘り下げる流れができている現場は、災害を未然に止められる。
製造業全般の災害事例と対策を横断的に知りたい場合は、製造業のヒヤリハット事例30選もあわせて参照してほしい。プレス以外の危険源も含めた現場対策の引き出しが増える。
ヒヤリハット報告の集め方そのものを強化したい場合は、ヒヤリハット報告を増やす方法(AnzenPost Plus)も実務の参考になる。
よくある質問(FAQ)
Q. プレス機の安全装置は法律で必ず付けなければいけませんか?
労働安全衛生規則第131条により、プレス機械については作業者の身体が危険限界に入らないよう安全囲いを設けるか、構造規格に適合した安全装置を取り付けることが事業者の義務とされている。手作業で材料を扱う工程では、両手操作式や光線式などの安全装置が実質的に必須になる。
Q. 両手操作式と光線式はどちらが安全ですか?
作業内容によって最適解が異なる。両手操作式は操作者本人の手を確実に危険限界外に置けるが、複数人作業や材料を保持する作業には向かない。光線式は開口部が広く手作業が多い工程に適し、進入を検知して停止させるが、回り込みや感度設定の管理が課題になる。作業実態を観察したうえで選ぶことが重要だ。
Q. 安全装置を付けているのに災害が起きるのはなぜですか?
多くは安全装置の無効化や運用ルールの形骸化が背景にある。生産効率を理由に光線を回避する、感度を下げる、ガードを開けたまま運転する、といった逸脱が慣習化しているケースだ。これは個人の不注意ではなく「正規手順では生産が回らない」という構造的矛盾の表れであり、根本原因分析で組織的に解決する必要がある。
Q. プレス工程のリスクアセスメントはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
設備の新設・変更、金型や作業方法の変更、そして災害・重大なヒヤリハットが発生したときには必ず再評価する。加えて、変更がなくても年1回程度の定期見直しを設定しておくと、残留リスクの放置を防げる。
Q. 小規模事業場でもプレス機械作業主任者は必要ですか?
動力プレスを5台以上有する事業場では、プレス機械作業主任者技能講習を修了した者から作業主任者を選任する義務がある。5台未満であっても、安全管理の責任者を明確にし、特別教育の対象業務には適切な教育を実施することが望ましい。
まとめ
プレス機の挟まれ・巻き込まれ災害は、製造業で件数・重篤度ともに高い類型である。本記事の要点を整理する。
- 実態:製造業のはさまれ・巻き込まれは2023年度6,377件で事故の型別1位。死亡率も高い二重に危険な災害である。
- 安全装置:安全囲い・両手操作式・光線式・インターロックガード式などを、作業実態に合わせて本質安全優先で選ぶ。
- 法令:安衛則第131条の安全囲い・安全装置設置義務を軸に、作業主任者選任・定期自主検査・特別教育などを満たす。法令は最低基準である。
- リスクアセスメント:危険源特定→見積もり→優先度→低減措置→記録の5ステップ。重篤度の高いプレスは頻度が低くても最優先扱い。
- 根本原因分析:「不注意」で止めず、治具の不在や装置無効化の構造まで掘り下げる。
- 運用ルール:始業前点検・段取り時のロックアウト・設定変更の管理・ヒヤリハット収集で対策を動かし続ける。
設備対策・法令遵守・リスクアセスメントは、災害を防ぐための土台だ。だが、それでも起きてしまった災害やヒヤリハットの「なぜ」を掘り下げ、再発を断つ仕組みがあって初めて、安全水準は継続的に上がっていく。プレス災害の根本原因分析をAIとツリー図で可視化したい場合は、WhyTrace Plusをぜひお試しいただきたい。
関連サービス
プレス安全・労災防止の取り組みをさらに強化するために、姉妹サービスの記事もご活用いただきたい。
- 製造業・建設業の労災統計データ(AnzenAI)
- 4M分析で災害要因を整理する方法(AnzenPost Plus)
- リスクアセスメントの実践ガイド(GenbaCompass)

著者
國分 良太
制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門
製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。
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