ロボット協働作業の安全|産業用ロボットの停止範囲とリスクアセスメント
協働ロボットを「人とロボットが同じ空間で作業できる」という売り文句だけで導入すると、思わぬ落とし穴にはまる。安全柵なしで運用できるのは、メーカーが規格適合品を提供し、かつ導入側が適切なリスクアセスメントを実施した場合に限られるからだ。柵を外した瞬間に、ロボットの安全責任の多くが現場側に移ってくる。
産業用ロボットによる労働災害は「はさまれ・巻き込まれ」が中心で、ひとたび起きれば重篤化しやすい。協働ロボットは設計上のリスク低減が進んでいるとはいえ、停止範囲の設計を誤れば人体に接触する。本記事では、ロボット協働作業に関わる安全規格と国内法令、停止範囲の考え方、そして導入前後で必須となるリスクアセスメントの実務を整理する。
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1. ロボット協働作業とは――4つの協働運転の種類
ロボット協働作業とは、安全柵で隔離せず、人とロボットが同一の作業空間を共有して行う作業形態である。従来の産業用ロボットが「人を近づけない」ことで安全を担保したのに対し、協働運転は「人が近くにいても危害を及ぼさない」ことを設計と運用で実現する。
ISO/TS 15066では、協働運転を4つの方式に分類している。導入するアプリケーションがどの方式に当たるかを最初に特定することが、安全方策の出発点になる。
| 協働運転の種類 | 概要 | 主なリスク低減手段 |
|---|---|---|
| 安全適合監視停止(SMS) | 人が協働領域に入るとロボットが停止し、退出すると再開 | 監視停止機能・存在検知 |
| ハンドガイド | 作業者が手でロボットを直接操作 | イネーブル装置・低速制御 |
| 速度・分離監視(SSM) | 人とロボットの距離に応じて速度を制御 | 距離センサ・エリアスキャナ |
| 出力・力の制限(PFL) | 接触しても人体に危害を及ぼさない出力・力に制限 | 力覚センサ・パワー制限設計 |
実務で「協働ロボット(コボット)」と呼ばれる製品の多くは、出力・力の制限(PFL)を前提に設計されている。だが「PFL対応の製品を買えば柵なしで使える」と短絡するのは危険だ。ワークや治具が鋭利であれば接触時の傷害リスクは跳ね上がるし、エンドエフェクタの形状次第で挟み込みも起こる。協働運転の種類は、ロボット本体だけでなくアプリケーション全体で決まる。
2. 産業用ロボットの労働災害――はさまれ・巻き込まれの実態
産業用ロボットの労働災害とは、ロボットの可動部と周辺構造物・治具との間で人体が挟まれる「はさまれ・巻き込まれ」を中心とする災害である。動作の予測が難しいロボットの特性上、いったん接触すると重篤災害につながりやすい。
厚生労働省の統計によると、製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数は令和6年(2024年)で4,692人にのぼる(2026年時点で公表されている最新値)。死亡災害全体に占める「はさまれ・巻込まれ」の割合も高く、機械災害が依然として製造現場の重大リスクであることを示している。
ロボット起因の死亡災害には、典型的なパターンがある。
- 稼働中のロボットの可動範囲に立ち入り、マニプレータと周辺機器の間に挟まれる
- 教示(ティーチング)や保全のため停止させずに作業していた
- 安全柵・囲いが設けられていなかった、または無効化されていた
- 単独作業で異常時に発見・救助が遅れた
過去には、稼働中の産業用ロボットのマニプレータと減速機の間に作業者の頭部が挟まれ死亡した事故も報告されている。運転を停止せずに可動範囲内で作業していたこと、安全柵がなかったこと、夜勤の単独作業だったことが重なった結果である(参考:職場のあんぜんサイト 労働災害事例 厚生労働省)。
協働ロボットは設計段階でこれらのリスクを下げているが、災害の「型」は共通している。停止せずに可動範囲へ立ち入る、安全機能を無効化する、異常時に一人――この3点は協働ロボットでも警戒すべき要因として残る。
3. 安全規格と国内法令――ISO 10218・ISO/TS 15066・労働安全衛生規則
協働ロボットの安全を支えるのは、国際規格(ISO)と国内法令(労働安全衛生規則)の二層構造である。どちらか一方では足りない。規格適合は「製品・システムの安全性」を、法令は「事業者の遵守義務」を担保する。
主要な安全規格
産業用ロボットの安全規格は、大きく3つに整理できる。
| 規格 | 対象範囲 | 主な内容 |
|---|---|---|
| ISO 10218-1 | ロボット本体 | ロボット単体の設計・製造に関する安全要求 |
| ISO 10218-2 | ロボットシステム・セル | システム統合・設置・運用の安全要求 |
| ISO/TS 15066 | 協働ロボット | 協働運転固有の要求、人体への力・圧力の許容値 |
ISO/TS 15066は、人とロボットが接触した場合に許容される力・圧力を身体の部位ごとに規定している。PFL方式の協働ロボットは、この許容値を超えないことを設計と検証で示す必要がある。「協働ロボットだから安全」ではなく、「自社のアプリケーションがISO/TS 15066の許容値を満たすことを検証して初めて安全」という順序を取り違えてはならない。
国内法令――80W規制とその緩和
国内では労働安全衛生規則第150条の4が、産業用ロボットの可動範囲内での作業に関し、原則として運転停止や安全柵などの危害防止措置を求めている。
かつては定格出力80Wを超えるロボットには安全柵の設置が事実上必須とされていた。しかし2013年12月の通達により、ISO 10218などの国際規格に準拠した適切なリスクアセスメントと安全方策を実施すれば、80Wを超えるロボットでも安全柵なしで人と協働運転できる道が開かれた(参考:協働ロボット安全規格とリスクアセスメント 現場改善ラボ)。
つまり「柵なし運用」は規制緩和の恩恵であると同時に、リスクアセスメントの実施が前提条件として課された運用形態でもある。柵を外す自由には、評価と記録の義務が伴う。
4. ロボットの停止範囲――協働領域と速度・分離の設計
ロボットの停止範囲とは、人がロボットに接近・侵入した際に、危害が及ぶ前にロボットを安全に停止または減速させるために確保すべき空間的・時間的な余裕のことである。協働作業の安全は、この停止範囲を物理空間に正しく落とし込めるかにかかっている。
協働領域と侵入検知
協働作業のセルは、一般に次の領域に分けて設計する。
- 協働領域:人とロボットが同時に存在しうる空間。この内側では協働運転の安全方策が常時有効でなければならない
- 監視領域:エリアスキャナなどで人の接近を検知する空間
- 退避・通路:人が安全に退出できる動線
速度・分離監視(SSM)方式では、人とロボットの距離が縮まるほど速度を落とし、安全分離距離を割り込む前に停止させる。ここで効いてくるのが「停止までの遅れ時間」だ。
安全停止距離を決める要素
ロボットが停止指令を受けてから完全に停止するまでには、複数の遅延が積み上がる。安全分離距離は、これらをすべて見込んで設定する。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 検知遅れ | センサが人を検知し信号を出すまでの時間 |
| 応答遅れ | 制御系が停止指令を処理するまでの時間 |
| 制動距離 | ロボットが減速・停止するまでに動く距離 |
| 人の接近速度 | 規格上は通常1.6 m/s(歩行速度)を想定 |
| センサ・機構の余裕 | 測定誤差や経年劣化を見込んだマージン |
協働ロボットでありがちな失敗が、「カタログ上の停止性能」をそのまま安全距離に使ってしまうことだ。実際には搬送ワークの重量やアームの姿勢で制動距離は変わる。重いワークを把持して伸びきった姿勢なら、停止距離は長くなる。停止範囲の設計は、最も条件の悪いケース(ワーストケース)で評価するのが鉄則である。
PFL方式で「接触しても安全」を狙う場合でも、停止範囲の考え方は捨てられない。接触検知から停止までの遅れが大きければ、許容値を超える力が一瞬かかりうるからだ。
5. リスクアセスメントの進め方――協働ロボット導入の5ステップ
リスクアセスメントとは、作業に潜む危険源を特定し、そのリスクの大きさを見積もって、許容できる水準まで低減する一連の手続きである。協働ロボットの「安全柵なし運用」は、このリスクアセスメントが適切に実施されていることが法令上・規格上の前提となる。
協働ロボット導入のリスクアセスメントは、おおむね次の5ステップで進める。
ステップ1:危険源の特定
ロボット本体、エンドエフェクタ、ワーク、治具、周辺機器のすべてを対象に危険源を洗い出す。挟み込み、衝突、鋭利部での切創、突き刺し、把持物の落下、教示・保全時の予期せぬ動作などが代表例だ。協働領域だけでなく、保全・段取り替えの非定常作業も忘れずに含める。
ステップ2:リスクの見積もり
特定した危険源ごとに、危害の重篤度・発生確率・回避可能性を評価する。協働ロボットでは、接触する身体部位(頭部・胴体・手指など)ごとにISO/TS 15066の許容値と照らし合わせる視点が加わる。
ステップ3:リスク低減方策の検討
リスク低減は「本質安全設計 → 安全防護・付加保護 → 使用上の情報」の優先順位(3ステップメソッド)で進める。
| 優先順位 | 方策の例 |
|---|---|
| 1. 本質的安全設計 | 出力・速度の制限、鋭利なエッジの排除、可動範囲の機械的制限 |
| 2. 安全防護・付加保護方策 | エリアスキャナ、ライトカーテン、非常停止、力覚監視 |
| 3. 使用上の情報 | 作業手順書、表示、教育訓練、立入禁止表示 |
「センサを足せば安全」と付加保護に飛びつく前に、そもそも危険源を設計で消せないかを問うのが本質安全設計の発想である。
ステップ4:残留リスクの評価と記録
低減方策を施した後に残るリスク(残留リスク)を再評価し、許容水準に収まっているかを確認する。協働運転の場合は、低速・低出力に制限した状態で実際に力・圧力が許容値以下かを検証・記録する。この記録が、労働基準監督署への対応や監査の根拠になる。
ステップ5:運用と見直し
導入後も、レイアウト変更、ワーク変更、治具改造、教示プログラムの修正があれば、その都度リスクアセスメントを見直す。「導入時に一度やって終わり」では、変更点に潜む新たな危険源を見逃す。
協働ロボットのリスクアセスメントの考え方は、一般的な機械のリスクアセスメントの延長線上にある。基本的な進め方を体系的に押さえたい場合は、リスクアセスメントのやり方を解説した記事もあわせて参照してほしい。
6. 安全柵なし運用の条件と、見落としやすい落とし穴
安全柵なし運用とは、リスクアセスメントの結果に基づいて協働運転の安全方策を講じることで、固定式の安全柵を設けずに人とロボットが同一空間で作業できる運用形態である。柵がない分、安全方策の妥当性をすべて自社で説明できる状態でなければならない。
柵なし運用を成立させる条件を整理すると、次のようになる。
- ロボットがISO 10218-1/-2に適合した製品であること
- アプリケーションがISO/TS 15066の力・圧力許容値を満たすことを検証していること
- リスクアセスメントで危険源を特定し、残留リスクが許容水準にあること
- 80Wを超える場合は労働基準監督署への届出など所定の手続きを行うこと
そのうえで、現場で見落とされがちな落とし穴がある。
| 落とし穴 | 内容 |
|---|---|
| エンドエフェクタの追加危険源 | 本体は安全でも、把持爪や鋭利なワークが新たな危険源になる |
| 安全機能の無効化 | 段取りや故障対応で安全機能をバイパスしたまま運用が常態化する |
| 非定常作業の評価漏れ | 教示・清掃・トラブル対応など定常作業以外の評価が抜ける |
| 速度設定の引き上げ | 生産性を理由に協働運転の制限速度を超えて運用する |
特に「安全機能の無効化が常態化する」パターンは、過去のロボット死亡災害の典型要因と重なる。安全方策は「設置した」だけでは機能せず、「無効化されない運用」まで設計して初めて意味を持つ。
よくある質問(FAQ)
Q. 協働ロボットなら、必ず安全柵なしで使えますか?
いいえ。安全柵なし運用は、ISO 10218・ISO/TS 15066への適合とリスクアセスメントの実施が前提条件である。把持するワークが鋭利だったり、エンドエフェクタに挟み込み箇所があったりすれば、柵や追加の安全方策が必要になる場合がある。製品が協働対応であることと、アプリケーション全体が安全であることは別問題だ。
Q. 定格出力80W以下のロボットならリスクアセスメントは不要ですか?
出力にかかわらず、産業用ロボットを用いる作業ではリスクアセスメントを実施するのが原則である。80Wは安全柵設置などの規制適用を判断する目安として歴史的に用いられてきたが、出力が小さくても挟み込みや鋭利部での傷害は起こりうる。出力の数値だけで安全を判断しないことが重要だ。
Q. 停止範囲(安全分離距離)はカタログの停止性能で決めてよいですか?
カタログ値はあくまで標準条件での参考値である。実際の安全分離距離は、搬送ワークの重量やアームの姿勢、センサの検知遅れ、人の接近速度などを見込んだワーストケースで設定する必要がある。重いワークを把持した姿勢では制動距離が伸びるため、余裕を持った設計が求められる。
Q. 導入後にレイアウトやワークを変えたら、何をすべきですか?
リスクアセスメントの再実施が必要である。レイアウト変更・ワーク変更・治具改造・教示プログラムの修正は、いずれも新たな危険源を生む可能性がある。変更管理のルールに「変更時はリスクアセスメントを見直す」を組み込み、記録を残しておくことが、災害防止と監査対応の両面で有効だ。
まとめ
協働ロボットは「人とロボットが同じ空間で働ける」技術だが、その安全は製品の性能だけでは完結しない。本記事の要点を整理する。
- 協働運転は4方式:安全適合監視停止・ハンドガイド・速度分離監視・出力力制限。自社アプリがどれに当たるかをまず特定する
- 災害の型は共通:はさまれ・巻き込まれが中心。停止せず可動範囲に立ち入る、安全機能を無効化する、単独作業の3要素が重大化を招く
- 規格と法令の二層構造:ISO 10218・ISO/TS 15066への適合と、労働安全衛生規則・80W規制への対応の両方が必要
- 停止範囲はワーストケースで設計:カタログ値ではなく、ワーク重量・姿勢・検知遅れを見込む
- リスクアセスメントが柵なし運用の前提:危険源特定から残留リスク評価、変更時の見直しまでを継続する
協働ロボット導入で洗い出した危険源は、「なぜその危険が生じるのか」を掘り下げてこそ根本対策につながる。リスクアセスメントの記録を表計算ソフトに散らかしたまま放置せず、分析と対策を組織のナレッジとして蓄積する仕組みを整えたい。
ロボット作業の危険源やヒヤリハットの根本原因を、AIとなぜなぜ分析で深掘りしたい方は、WhyTrace Plus を無料で試せる。分析結果はツリー図で可視化され、対策管理まで一体で運用できる。
関連サービス
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- 現場の安全管理を体系化する完全ガイド(AnzenAI)
- ロボット作業のヒヤリハット報告を増やす方法(安全ポスト+)
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著者
國分 良太
制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門
製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。
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