ブログ一覧に戻る
法規・コンプライアンス2026/9/412分で読めます

衛生管理者のための作業環境測定の読み方|管理区分と改善の判断

作業環境測定管理区分衛生管理者第三管理区分労働安全衛生法局所排気装置作業環境管理管理濃度

作業環境測定の結果報告書を受け取ったものの、「第二管理区分」「評価値」「管理濃度」といった用語の意味が曖昧なまま、測定機関の所見をそのまま回覧しているだけ——衛生管理者になりたての方からよく聞く悩みである。

数値の羅列に見える報告書だが、読み方を押さえれば「どの作業場の、どこが、どれだけ危険で、何をすればよいか」がはっきり見えてくる。とくに第二・第三管理区分の判定が出たとき、法的に何を求められ、どこまで対応すれば足りるのかを判断できるかどうかは、衛生管理者の力量がそのまま問われる場面だ。本記事では、管理区分の意味と評価のしくみ、区分ごとの法的義務、そして改善の優先順位の付け方までを、報告書を手元に置いて読み解く実務目線で整理する。

第三管理区分の判定が出た作業場の原因究明と再発防止を、なぜなぜ分析で構造化したい衛生管理者の方は、WhyTrace Plus を無料で試せる。


1. 作業環境測定とは何か――衛生管理者が押さえる定義

作業環境測定とは、作業環境の実態を把握するために空気環境などについて行う「デザイン・サンプリング・分析」の一連の行為である。労働安全衛生法第2条第4号に定義され、同法第65条で有害業務を行う屋内作業場などについて測定の実施と結果の記録が義務づけられている(2026年時点、参考:作業環境測定の基礎知識 日本作業環境測定協会)。

衛生管理者が理解しておくべきは、測定は3つの段階で構成されるという点だ。

段階 内容 誰が担うか
デザイン どこで・いくつ・いつ測るかの設計 作業環境測定士
サンプリング 実際に空気を採取する 作業環境測定士
分析 採取試料の濃度を定量する 分析機関

デザインを誤ると、いくら精密に分析しても現場の実態を反映しない結果になる。測定の「設計図」を作る段階が最も専門性を要するため、粉じん・有機溶剤・特定化学物質など指定作業場の測定は作業環境測定士または登録測定機関に委託するのが原則だ。衛生管理者の役割は測定そのものを行うことではなく、結果を読み解き、事業場としての改善を回すことにある。

測定が義務となる主な作業場

対象は労働安全衛生法施行令で定められており、代表的なものは以下である。

  • 粉じんを著しく発散する屋内作業場
  • 有機溶剤を製造・取り扱う屋内作業場
  • 特定化学物質を製造・取り扱う屋内作業場
  • 鉛・石綿を取り扱う作業場
  • 著しい騒音を発する屋内作業場
  • 高熱・寒冷・多湿の屋内作業場

自社のどの作業場が法定測定の対象かを台帳化しておくことが、衛生管理者の最初の仕事になる。


2. A測定とB測定の違い――何を測っているのか

A測定とB測定とは、単位作業場所のなかで「平均的な状態」と「最も濃度が高くなりうる状態」をそれぞれ把握するための2種類の測定である。報告書を読むうえで、この2つの違いを取り違えると評価の意味を誤読する。

A測定は、単位作業場所の気中有害物質濃度の平均的な分布を把握するための測定だ。作業場を区切って複数地点で測り、その分布から作業場全体の状態を統計的に評価する。

B測定は、有害物質の発散源の近くで作業が行われる場合など、作業者が高濃度にばく露する可能性がある地点を狙って測る測定である。発散源とともに作業者が移動するケースや、間欠的に高濃度が発生する作業を捉えるために行う。

区分 目的 測る場所
A測定 作業場全体の平均的状態の把握 作業場を格子状に区切った複数地点
B測定 最高濃度ばく露の把握 発散源近傍・作業者の実作業位置

最終的な管理区分は、A測定の評価結果とB測定の評価結果を組み合わせて、より悪い方の区分が採用される。「A測定は第一区分なのにB測定が第三区分だったため、作業場全体が第三管理区分になった」という判定はよくある。報告書を見るときは、A測定とB測定のどちらが区分を引き下げたのかを必ず確認する。


3. 管理濃度と評価値――数値の意味を読み解く

管理濃度とは、作業環境管理の良否を判断するために物質ごとに行政的に定められた基準値である。これは「これ以下なら安全」という許容濃度とは異なる、あくまで作業環境の管理状態を区分するための指標だ。

衛生管理者が混同しやすいのが、測定で得られた「実測濃度」と、統計処理を経た「評価値」の違いである。管理区分は実測濃度そのものではなく、評価値と管理濃度の比較で決まる。

評価値の考え方

A測定では、複数地点の実測濃度のばらつき(標準偏差)を加味した統計処理を行い、第一評価値と第二評価値という2つの評価値を算出する(参考:作業環境評価基準の適用について 厚生労働省)。

  • 第一評価値: 単位作業場所のほぼすべての地点で濃度がこの値を下回ると見込まれる濃度(高めに見積もった値)
  • 第二評価値: 単位作業場所の平均濃度の推定値

この2つの評価値と管理濃度の大小関係によって、機械的に管理区分が決まる。つまり、ある1地点だけ突出して高い濃度が出ると、ばらつきが大きいと判定されて第一評価値が跳ね上がり、平均は低くても区分が悪化することがある。「平均値は管理濃度を下回っているのに第三管理区分」という結果が出るのはこのためだ。

衛生管理者が報告書で確認すべきは次の3点である。

  1. 対象物質の管理濃度(基準値)
  2. 第一評価値・第二評価値(自社の数値)
  3. その比較から導かれた管理区分

数値の絶対値より、「管理濃度に対してどの評価値がどれだけ超過しているか」を読むことが、改善の方向を見極める出発点になる。


4. 3つの管理区分の意味と法的義務

管理区分とは、評価値と管理濃度の比較によって作業場を第一・第二・第三の3段階に分類した結果である。区分ごとに事業者が講ずべき措置が法令で定められており、衛生管理者はこの義務の重さを正確に把握しておく必要がある(参考:作業環境測定 高知労働局 厚生労働省)。

管理区分 状態 事業者の義務
第一管理区分 作業環境管理は適切 現状の維持に努める
第二管理区分 おおむね適切だが改善の余地あり 設備・作業方法の点検と改善の努力義務
第三管理区分 管理が不適切 直ちに点検・改善し、効果を測定で確認する義務

第一管理区分

単位作業場所のほぼすべて(おおむね95%以上)で濃度が管理濃度を下回り、作業環境管理が適切と判断される状態だ。維持に努めることが求められるが、「適切だから何もしなくてよい」ではない。発散源の管理や局所排気装置の点検を怠れば次回測定で悪化しうるため、現状維持には継続的な保全が前提となる。

第二管理区分

作業場の平均濃度は管理濃度を下回るものの、第一管理区分と比べて改善の余地がある状態である。設備や作業方法を点検し、その結果に基づいて改善の努力をすることが求められる。努力義務であるため法的強制力は第三区分より弱いが、放置すれば第三区分への悪化が見えているサインと受け止めるべきだ。衛生管理者としては、第二区分が出た時点で原因を分析し、次回測定までに手を打つ判断が求められる。

第三管理区分

作業場の平均濃度が管理濃度を超え、作業環境管理が不適切と判断される状態だ。事業者は直ちに作業場の点検を行い、局所排気装置の設置・改修や作業方法の改善などの措置を講じ、第一または第二管理区分になるよう努めなければならない。さらに、措置を講じた後は有害物質濃度の測定と評価を行い、効果を確認する義務がある。あわせて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる、必要に応じて健康診断を実施するなどの措置も求められる。


報告書を「回覧して終わり」にしていないか

第三管理区分の判定が出たとき、本当に必要なのは「なぜ管理濃度を超えたのか」の原因究明だ。局所排気装置の能力不足なのか、作業手順の変化なのか、発散源の増加なのか——表面的な対策で済ませると次回も同じ区分が出る。

WhyTrace Plus は、測定結果の悪化という事象からなぜなぜ分析・FTAでAIが原因を構造化し、対策と効果確認までを記録として残せる。報告書を改善のスタート地点に変えるためのツールだ。


5. 第三管理区分が出たときの判断フロー

第三管理区分への対応とは、点検・改善・効果確認・保護具・記録という一連のプロセスを順に踏む法定の手順である。場当たり的に保護具だけ配って済ませると法令違反となるため、衛生管理者は流れを押さえておきたい。

2024年4月施行の省令改正により、第三管理区分の作業場に対する措置が強化された(2026年時点で施行済み、参考:作業環境測定結果が第三管理区分の事業場に対する措置の強化 厚生労働省)。改善が困難な作業場については、外部の作業環境管理専門家の意見を聴き、その意見に基づく措置や、個人ばく露測定による呼吸用保護具の選定・装着確認などが求められる枠組みになっている。

対応の手順

  1. 直ちに作業場を点検する: 局所排気装置・プッシュプル型換気装置の能力、発散源の状態、作業方法の変化を確認する
  2. 原因を特定する: 設備劣化・処理量増加・作業手順の変更など、区分悪化の真因を分析する
  3. 改善措置を講じる: 設備の改修・新設、作業方法の見直し、発散源の密閉化などを実施する
  4. 効果を測定で確認する: 措置後に再度測定・評価し、第一または第二区分に改善したか検証する
  5. 改善困難な場合は専門家の意見を聴く: 作業環境管理専門家の判断を仰ぎ、個人ばく露測定・有効な呼吸用保護具の選定と装着確認を行う
  6. 記録を残す: 点検・措置・効果確認の内容を記録し、次回測定時の判断材料とする

第三管理区分対応で頻出するのが、局所排気装置の能力不足だ。なぜ能力が不足したのか——フードの位置がずれたのか、ダクトが詰まったのか、処理風量の設計が現状作業に合っていないのか——の切り分けが改善の質を左右する。局所排気装置の設計・運用については局所排気装置の基礎で詳しく整理しているので、設備面の原因を疑う場合はあわせて確認したい。


6. 衛生管理者による改善の優先順位の付け方

改善の優先順位とは、複数の作業場や物質の測定結果を前にしたとき、限られた予算と人手をどこから投じるかを決める判断基準である。すべてを一度に対策できる事業場は少ないため、ここで衛生管理者の判断力が問われる。

優先順位は、法的義務の強さと健康リスクの大きさの2軸で考えると整理しやすい。

優先度 対象 理由
最優先 第三管理区分の作業場 直ちに改善する法的義務がある
第二管理区分かつ発がん性等の高有害物質 健康影響が重大で悪化リスクも高い
第二管理区分の作業場全般 努力義務だが次回悪化の予兆
維持 第一管理区分 現状の保全を継続

改善の対策は「管理の優先順位」に従う

労働衛生対策には「発生源対策 → 経路対策 → 受け手対策」という優先順位がある。衛生管理者はこの順で対策を検討すべきだ。

  • 発生源対策: 有害物質の使用量削減、低毒性物質への代替、発散源の密閉化(最も根本的)
  • 経路対策: 局所排気装置・プッシュプル型換気装置による排気、全体換気
  • 受け手対策: 呼吸用保護具の使用、作業時間の短縮(最後の手段)

保護具は重要だが、それだけに頼る対策は本質的な改善ではない。第三管理区分で呼吸用保護具の使用が義務づけられているのは、あくまで設備改善が完了するまでの暫定措置という位置づけだ。「保護具を配ったから対応済み」とせず、発生源・経路の対策で区分そのものを改善することを最終目標に据える。

測定結果の悪化を単発の指摘で終わらせず、原因の構造を分析し、対策の効果を次回測定で検証する——このPDCAを回せるかどうかが、形式的な衛生管理と実効性のある衛生管理の分かれ目になる。


よくある質問(FAQ)

Q. 第二管理区分なら法的には問題ないので、改善しなくてよいですか?

第二管理区分は努力義務であり、第三管理区分のような「直ちに改善」の強制はない。ただし第二区分は第一区分より管理状態が劣り、設備劣化や作業量増加で容易に第三区分へ悪化しうる予兆でもある。次回測定で第三区分にならないよう、原因を点検し改善の手を打っておくのが衛生管理者の妥当な判断だ。

Q. 平均濃度は管理濃度より低いのに、なぜ第三管理区分になるのですか?

管理区分は実測の平均濃度ではなく、ばらつき(標準偏差)を加味した評価値で判定されるためだ。一部の地点だけ突出して高い濃度が出ると第一評価値が大きくなり、平均が低くても区分が悪化する。発散源近傍に濃度の偏りがないかを確認し、その地点の発生源対策を優先するとよい。

Q. 測定は誰に依頼すればよいですか?

粉じん・有機溶剤・特定化学物質などの指定作業場の測定は、作業環境測定士または登録作業環境測定機関に委託するのが原則だ。デザイン(測定設計)には高い専門性が必要なため、自社で完結させず専門機関を活用する。衛生管理者の役割は測定の実施ではなく、結果を読み解いて事業場の改善を主導することにある。

Q. 第三管理区分で改善がどうしても難しい場合はどうすればよいですか?

2024年4月施行の措置強化により、改善が困難な作業場は外部の作業環境管理専門家の意見を聴き、その意見に基づく措置を講じる枠組みが整備された(2026年時点で施行済み)。個人ばく露測定による有効な呼吸用保護具の選定・装着確認などを行い、その記録を残す必要がある。専門家への相談を早めに行うことが、適正な対応につながる。


まとめ

作業環境測定の報告書は、読み方さえ押さえれば「どの作業場をどう改善すべきか」を示す設計図になる。本記事の要点を整理する。

  • 測定の構造: デザイン・サンプリング・分析の3段階。設計が最も専門性を要し、指定作業場は測定士・登録機関に委託する
  • A測定とB測定: 平均的状態(A)と最高濃度(B)を測り、悪い方の区分が採用される
  • 管理濃度と評価値: 区分は実測値ではなく、ばらつきを加味した評価値と管理濃度の比較で決まる
  • 3つの管理区分: 第一(維持)、第二(改善努力義務)、第三(直ちに改善する義務)
  • 第三管理区分対応: 点検・改善・効果確認・保護具・記録の手順を踏む。2024年4月施行の措置強化で専門家の意見聴取の枠組みが整備された
  • 改善の優先順位: 法的義務と健康リスクで優先度を決め、発生源 → 経路 → 受け手の順で対策する

数値を眺めるだけの衛生管理から、原因を分析し対策の効果を次回測定で検証する衛生管理へ——その転換が、現場の健康リスクを実際に下げる。測定結果の悪化を事象として登録し、なぜなぜ分析・FTAで原因を構造化したい場合は、WhyTrace Plus をぜひ試してほしい。分析結果と対策・効果確認を組織のナレッジとして蓄積でき、衛生管理のPDCAを回す基盤になる。


関連サービス

作業環境管理・労働安全衛生の取り組みを強化するために、姉妹サービスの記事もあわせてご活用いただきたい。

國分 良太

著者

國分 良太

制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門

製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。

※ 本サイトは所属企業とは関係のない個人活動です。記載の見解は筆者個人のものです。

WhyTrace Plusを無料で始める

メールアドレスだけで登録可能。クレジットカード不要。月10回のAI分析を無料でお試しいただけます。

あわせて読みたい基礎ガイド

関連記事

衛生管理者のための作業環境測定の読み方|管理区分と改善の判断 | WhyTrace Plus ブログ | WhyTrace Plus