機械譲渡時の「危険情報の通知」義務|中古機械・自社製造設備の対応
機械を他社に売る、グループ会社へ移設する、社内で内製した設備を別工場へ渡す——こうした場面で「危険情報の通知」という言葉を聞いて、何をどこまでやればいいのか戸惑った経験はないだろうか。「努力義務だから後回しでいい」と判断している現場は少なくない。だが、譲渡先で災害が起きたとき、通知を怠った事実は安全配慮義務や製造物責任の文脈で必ず問われる。
本記事では、労働安全衛生規則第24条の13が定める通知義務の中身を条文ベースで整理し、残留リスクマップ・残留リスク一覧という2つの文書の作り方、そして中古機械・自社製造設備という現場で混乱しやすい2ケースの実務対応までを解説する。設備管理・安全衛生・生産技術の担当者が、譲渡の前に何を準備すべきかが見えるはずだ。
1. 危険情報の通知義務とは――労働安全衛生規則第24条の13の位置づけ
危険情報の通知とは、機械を譲渡または貸与する事業者が、その機械に残る危険箇所や関連作業の危険性を相手方に文書で知らせる取り組みである。労働安全衛生規則第24条の13に定められ、2012年(平成24年)の規則改正で努力義務として導入された(2026年時点で施行済み)。
ここで押さえるべきは「努力義務」という言葉の重みだ。罰則を伴う絶対的な義務ではないものの、行政が指針まで整備して推進している以上、「やらなくてよい」という意味ではない。譲渡元が機械のリスクを最もよく知る立場にある以上、その情報を譲渡先に渡すことが災害防止の合理的な前提とされている。
- 対象: 労働者に危険または健康障害を生ずるおそれのある機械
- 通知する者: 機械を譲渡・貸与する事業者(メーカー・販売店・ユーザー企業を問わない)
- 通知の相手: 機械を譲り受け、または借り受ける事業者
- 通知の方法: 文書の交付その他の方法(残留リスクマップ・残留リスク一覧が代表例)
通知義務は新品の機械メーカーだけの話ではない。中古機械を売却するユーザー企業、グループ間で設備を移設する製造業、社内で設備を内製して別拠点へ渡す企業——いずれも「譲渡・貸与する事業者」に該当しうる。この射程の広さが、実務で見落とされやすい最大のポイントである。
譲渡前の残留リスク整理を、Excelの台帳とにらめっこで進めていないだろうか。WhyTrace Plusなら、過去のヒヤリハットや故障事象を起点に「どの作業のどこに危険が残るか」をAIが構造化し、通知文書の下地を素早く作れる。
2. 通知すべき5項目――何をどこまで伝えるか
通知すべき内容とは、機械の危険箇所と、その箇所で行う作業に伴うリスクを体系的に示した5項目である。厚生労働省の指針は、譲渡者が相手方に伝えるべき情報を次の5つに整理している(参考:厚生労働省「機械に関する危険情報の通知」)。
| 項目 | 内容 | 記載のポイント |
|---|---|---|
| ① 危険箇所 | 機械の中で労働者に危険・健康障害を生じうる場所 | 図面や写真で位置を特定する |
| ② 危険を伴う作業 | その危険箇所で行う作業の内容 | 段取り・清掃・保全など非定常作業も含める |
| ③ 最も重大な危険・健康障害 | 各作業で生じうる最悪のケガ・健康障害 | 「挟まれ・切断」など災害の型で記す |
| ④ 既に講じた保護方策 | メーカー側で実施済みの本質安全・安全防護 | ガード・インターロック等の設計上の対策 |
| ⑤ ユーザーが講ずべき保護方策 | 譲渡先で追加すべき対策 | 立入禁止・教育・保護具など運用上の措置 |
5項目の核心は④と⑤の役割分担にある。機械側で安全防護を尽くしても、設計だけでは消しきれない危険——いわゆる残留リスク——は必ず残る。その残留リスクを「ユーザー側が運用でカバーすべき部分」として明示するのが⑤の意味だ。ここが曖昧だと、譲渡先は「この機械は安全対策済み」と誤解し、本来必要な運用ルールを設けないまま使い始めてしまう。
非定常作業を漏らさないことも重要である。挟まれ・巻き込まれ災害の多くは、通常運転中ではなく清掃・調整・トラブル対応といった非定常作業中に発生する。②の「危険を伴う作業」を定常運転だけで記述すると、通知文書としては実質的に機能しない。
3. 残留リスクマップと残留リスク一覧――2つの通知文書
残留リスクマップとは、機械の図面や絵を使って危険情報の全体像を一目で示す文書であり、残留リスク一覧とは、作業ごとに5項目を詳細に記述する一覧表である。厚労省の指針は、この2つを通知文書の標準形式として例示している(参考:厚生労働省 機械ユーザーによる保護方策が必要な残留リスクマップ)。
残留リスクマップの役割
残留リスクマップは、機械の外観図や断面図の上に危険箇所をプロットし、番号を振って示す。「どこに危険があるか」を視覚的に把握させるのが目的だ。文章だけの通知に比べ、初めてその機械に触れる作業者でも危険の位置関係を直感的に理解できる。
残留リスク一覧の役割
残留リスク一覧は、マップで振った番号と対応づけながら、作業ごとに5項目を表形式で詳述する。マップが「位置」を示すのに対し、一覧は「何が・なぜ・どう危ないか・どう守るか」を文章で補う。一般的な列構成は次のとおりだ。
| 列 | 記載内容 |
|---|---|
| No. | マップ上の危険箇所番号と一致させる |
| 危険箇所 | 機械部位の名称 |
| 作業内容 | 定常・非定常を区別して記述 |
| 危険の型 | 挟まれ、切断、感電、高温など |
| 重大度 | 想定される最悪のケガ |
| メーカー実施の保護方策 | ガード、インターロック等 |
| ユーザーが講ずべき保護方策 | 教育、保護具、立入制限等 |
なお、すべての情報をマップ上に書き切れる場合は一覧を省略してよく、逆にマップなしでも箇所が特定できる場合は一覧だけでも差し支えない、と指針は柔軟性を認めている。形式の体裁よりも、5項目が漏れなく相手に伝わることが本質である。
4. 中古機械を譲渡する場合の実務対応
中古機械の譲渡では、新品とは異なる固有の難しさがある。それは「製造時の安全情報が手元にない」という現実だ。
旧式の機械、メーカーが廃業した機械、改造を重ねた機械では、当時の取扱説明書やリスクアセスメント記録が残っていないことが珍しくない。この場合、譲渡元であるユーザー企業自身が、自社の使用実績をもとに危険情報を再構成する必要がある。出発点になるのは次のような社内データだ。
- 過去に発生したヒヤリハット・労働災害の記録
- 設備の故障・異常停止の履歴
- 作業手順書に記載された注意事項・禁止事項
- ベテラン作業者が経験的に把握している危険箇所
これらを突き合わせると、「この部位の清掃中に手を入れてヒヤリとした」「この扉を開けたまま運転すると危ない」といった、現場の暗黙知に埋もれた残留リスクが浮かび上がる。中古機械の通知では、メーカー由来の設計情報よりも、こうした運用実績ベースの情報のほうが価値を持つ場面が多い。
改造・後付けの履歴も忘れてはならない。安全カバーを外した、コンベヤを延長した、制御を後付けで変更した——こうした改変は、メーカー出荷時のリスクアセスメントを無効にする。改造した側(=譲渡元)が改造後の状態でリスクを評価し直し、通知に反映する責任を負う。
過去のヒヤリハットや災害事例から、機械に潜む残留リスクを掘り起こせていないなら、ここが課題だ。
WhyTrace Plusは、発生した事象を起点にAIがなぜなぜ分析で根本原因を深掘りし、「どの作業のどこに、なぜ危険が残るのか」を因果ツリーで可視化する。中古機械の残留リスク一覧を作る際、現場に散らばった災害・故障情報を構造化された危険情報へ変換する下地として使える。
5. 自社製造設備(内製設備)を譲渡・移設する場合の対応
自社製造設備の譲渡とは、社内で内製した治具・専用機・自動化ラインを、別工場やグループ会社へ渡すケースである。実務で最も対応が抜け落ちやすいのがこのパターンだ。
「自分たちで作った設備を、自分たちの別拠点に移すだけ」という意識から、通知文書を一切作らずに移設してしまう例は多い。だが、受け取る側の工場にとっては初めて触れる機械であり、設計意図も危険箇所も共有されていない。同じ会社の中であっても、設計・製作した部署と使用する部署が異なれば、危険情報の伝達は外部譲渡と同じ重みを持つ。
内製設備で特に問題になるのが、設計文書の不在である。メーカー製と違い、内製設備は取扱説明書やリスクアセスメント記録が整っていないことが多い。製作した担当者の頭の中にしか残留リスクの情報がない、という属人化が起きやすい。担当者が異動・退職すれば、その設備のリスク情報は永久に失われる。
| 内製設備の課題 | 対応の方向性 |
|---|---|
| 設計文書・取説が存在しない | 製作担当者へのヒアリングで残留リスクを文書化 |
| リスクアセスメント未実施 | 移設前に改めてリスクアセスメントを実施 |
| 危険情報が担当者に属人化 | 残留リスク一覧として形式知化し引き継ぐ |
| 協働ロボット等の新技術を後付け | 人と機械の協調作業に応じた追加評価 |
近年は内製設備に協働ロボットを組み込む現場も増えている。人と機械が同じ空間で作業する構成では、従来の「柵で囲う」発想とは異なるリスク評価が必要になる。協働ロボット特有の安全要件については協働ロボットの安全対策の考え方で詳しく扱っているので、内製設備に組み込む前に確認しておきたい。
内製設備の危険情報は、製作担当者が現役のうちに、残留リスク一覧という形で吸い上げておくのが鉄則だ。これは技術継承の問題でもある。設備に潜む危険の知識を個人の経験から組織の記録へ移す作業は、安全と技能伝承の両面で価値がある。
6. 通知を怠った場合のリスク――努力義務でも軽視できない理由
通知義務を怠ったときのリスクとは、行政罰ではなく、民事・社会的な責任として顕在化する種類のものである。第24条の13は努力義務ゆえ直接の罰則はないが、それを理由に通知を省くのは経営判断として危うい。
譲渡先で機械による災害が発生した場合、次のような形で譲渡元の責任が問われうる。
- 安全配慮義務・取引上の責任: 危険を知りながら伝えなかった事実は、譲渡契約上の責任や信義則の文脈で不利に働く
- 製造物責任(内製設備の場合): 自社で製作した設備を他社に渡せば、製造物責任法上の「製造業者」に該当する可能性がある
- レピュテーションの毀損: 取引先の労働者が被災すれば、原因究明の過程で通知の不備が明るみに出る
逆に言えば、適切な通知文書を残しておくことは、譲渡元にとって「やるべきことをやった」という証跡になる。残留リスクマップと一覧は、災害防止の道具であると同時に、譲渡元自身を守る記録でもある。
中央労働災害防止協会も「機械に関する危険情報の通知」の活用を呼びかけており、努力義務だからと放置せず積極的に運用することを推奨している(参考:中央労働災害防止協会 機械に関する危険情報の通知を活用しましょう)。
7. 通知文書作成の進め方――5ステップ
通知文書の作成手順とは、危険箇所の洗い出しから文書化までを段階的に進めるプロセスである。場当たり的に作ると5項目に抜けが生じるため、順序立てて進めたい。
- 対象機械のリスクアセスメントを実施・確認する: 既存の評価記録があれば確認し、なければ実施する。中古・内製設備は再評価が前提になる。
- 危険箇所を特定し図面にプロットする: 定常・非定常の全作業を洗い出し、危険箇所に番号を振って残留リスクマップの下地を作る。
- 作業ごとに5項目を整理する: 危険箇所・作業・重大度・実施済み対策・ユーザーが講ずべき対策を一覧表に落とす。
- メーカー対策とユーザー対策を切り分ける: ④と⑤の役割分担を明確にし、譲渡先が誤解しないようにする。
- マップと一覧を文書化し交付する: 譲渡・貸与の際に文書を相手方へ渡し、交付の記録を残す。
このプロセスで最も労力がかかるのは、ステップ2と3の「危険箇所と作業の洗い出し」である。とくに中古・内製設備では、現場に分散した災害・故障・ヒヤリハットの情報を集約し、構造化する作業がボトルネックになりやすい。ここを効率化できるかが、通知文書の質と作成スピードを左右する。
よくある質問(FAQ)
Q. 危険情報の通知は罰則のある義務ですか?
労働安全衛生規則第24条の13は努力義務であり、通知を怠ったこと自体への直接的な罰則は定められていない。ただし、譲渡先で災害が起きた場合、安全配慮義務や製造物責任の観点から責任を問われる可能性があるため、実務上は実施すべき取り組みと位置づけるのが妥当だ。
Q. 中古機械を売るときも通知が必要ですか?
該当する。第24条の13は「機械を譲渡または貸与する事業者」を対象としており、メーカーに限らず、中古機械を売却するユーザー企業も含まれる。製造時の資料がない場合は、自社の使用実績やヒヤリハット記録をもとに残留リスクを再構成して通知する。
Q. 残留リスクマップと残留リスク一覧は両方作る必要がありますか?
必ずしも両方が必須ではない。すべての情報をマップ上に書き切れる場合は一覧を省略でき、マップがなくても箇所が特定できる場合は一覧だけでも差し支えないと指針は認めている。形式よりも、通知すべき5項目が漏れなく相手に伝わることが重要である。
Q. 自社で作った設備を別工場へ移すだけでも通知は要りますか?
社内移設であっても、設計・製作した部署と使用する部署が異なれば、危険情報の伝達は外部譲渡と同等の意味を持つ。内製設備は設計文書が整っていないことが多く、製作担当者が在籍するうちに残留リスクを文書化しておくことが、安全面でも技術継承の面でも望ましい。
Q. 通知文書の作成で最も手間がかかるのはどこですか?
危険箇所と作業の洗い出し、すなわち5項目のうち①〜③を整理する工程である。とくに中古・内製設備では設計資料が乏しく、現場に分散した災害・故障・ヒヤリハット情報を集約する必要がある。この情報集約と構造化を効率化できるかが、文書全体の質とスピードを決める。
まとめ
機械譲渡時の危険情報の通知は、労働安全衛生規則第24条の13に基づく努力義務であり、メーカーだけでなく中古機械を売るユーザー企業や内製設備を移設する製造業も対象になる。
本記事の要点を整理する。
- 通知5項目: 危険箇所・危険を伴う作業・最も重大な危険/健康障害・実施済みの保護方策・ユーザーが講ずべき保護方策。④と⑤の役割分担が核心。
- 2つの文書: 残留リスクマップ(位置の可視化)と残留リスク一覧(作業ごとの詳細)。両方が必須ではなく、5項目が伝わることが本質。
- 中古機械: 製造時資料がない前提で、ヒヤリハット・災害・故障履歴から残留リスクを再構成する。改造後は再評価が必要。
- 内製設備: 設計文書の不在と属人化が課題。製作担当者が在籍するうちに残留リスクを形式知化する。
- 怠った場合: 直接の罰則はないが、安全配慮義務・製造物責任・レピュテーションの面でリスクを負う。
通知文書作成のボトルネックは、現場に散らばった危険情報の集約と構造化にある。発生した事象から残留リスクを掘り起こし、文書の下地を作る作業をAIで効率化したい場合は、WhyTrace Plusを試してみてほしい。なぜなぜ分析と原因の可視化を一体で運用でき、機械に潜む危険の知識を組織のナレッジとして蓄積できる。
Sources:
- 機械を譲渡または貸与する事業者の皆さまへ「機械に関する危険情報の通知」が努力義務になりました – 厚生労働省
- 「改正労働安全衛生規則第24条の13」および指針の概要 – 厚生労働省
- 機械ユーザーによる保護方策が必要な残留リスクマップ – 厚生労働省
- 「機械に関する危険情報の通知」を活用しましょう – 中央労働災害防止協会
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著者
國分 良太
制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門
製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。
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