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法規・コンプライアンス2026/9/1712分で読めます

騒音障害防止ガイドライン改正対応|85dB管理と聴覚保護具の選定

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「うちの工場は昔から耳栓を配っているから大丈夫」——そう考えている安全衛生担当者は少なくない。だが2023年(令和5年4月)の騒音障害防止ガイドライン改正で、求められる管理の水準は明確に引き上げられた。耳栓を配るだけでは、もはやガイドライン適合とは言えない。

騒音性難聴は、いったん進行すると元に戻らない不可逆の職業性疾病である。しかも本人の自覚が遅れやすく、健診で異常が見つかったときには既に手遅れというケースが後を絶たない。だからこそ「測る」「区分する」「保護具を正しく選ぶ」という一連の実務を、改正内容に沿って組み直す必要がある。本記事では、85dBの管理区分の考え方、新たに加わった個人ばく露測定、JIS規格に準拠した聴覚保護具の選定、健康診断の変更点まで、現場で使える形に整理する。

騒音による苦情・健診の有所見をきっかけに原因をさかのぼると、「測定の死角」「保護具のミスマッチ」「作業手順の形骸化」が複合していることが多い。WhyTrace Plusは、こうした環境要因の根本原因をなぜなぜ分析で構造化し、是正の優先順位を見える化する。


1. 騒音障害防止ガイドライン改正の全体像

騒音障害防止のためのガイドラインとは、労働者の騒音性難聴を予防するため、騒音作業の管理・測定・保護具・健康管理について事業者が取るべき措置を体系化した厚生労働省の指針である。平成4年に策定され、2023年(令和5年4月20日)に約30年ぶりの大幅な改訂が行われた(参考:騒音障害防止対策 厚生労働省、2026年時点)。

改訂の背景には、測定技術の進歩と医学的知見の蓄積がある。旧ガイドラインは定点での作業環境測定を前提としていたが、作業者が移動しながら騒音にさらされる実態を捉えきれていなかった。今回の改訂は、その実態に測定と管理を近づける内容になっている。

主な改訂ポイントは次の4点に集約される。

改訂項目 改訂前 改訂後(2026年時点)
騒音測定の方法 定点による作業環境測定が中心 個人ばく露測定・推計の方法を追加
対策管理者 規定が限定的 衛生管理者・安全衛生推進者に加えライン管理者・職長等も選任可
聴覚保護具の選定 着用の徹底が中心 JIS規格に基づく遮音値を目安にした選定を明記
健康診断 4000Hz選別検査の音圧40dB 4000Hzを25dB・30dBに変更

これらは別々の改正ではなく、「正しく測り、適切に区分し、過不足なく保護し、確実に経過観察する」という一連のサイクルを締め直すものだ。どれか一つだけ対応しても効果は限定的になる。


2. 85dB管理区分の考え方

85dB管理区分とは、等価騒音レベル(LAeq)が85デシベル以上となる作業場を、騒音障害防止措置を要する区分として扱う考え方である。ガイドラインでは騒音レベルに応じて管理区分を分け、求められる措置の強度を変えている。

区分の考え方をかみ砕くと、次のようになる。

  • 85dB未満:直ちに措置を要する区分ではないが、変動が大きい作業では監視を継続する
  • 85dB以上90dB未満:聴覚保護具の使用や保護具着用の管理を求める区分
  • 90dB以上:発生源対策(低騒音化・遮蔽)と保護具を併用し、優先的に改善する区分

ここで重要なのは、85dBが「保護具を配れば済むライン」ではなく「環境そのものを下げる検討を始めるべきライン」だという点である。等価騒音レベルが85dB以上の作業場では、騒音を発する設備自体の低減や、ついたて・遮音壁の設置といった改善措置が求められる(参考:改訂された騒音障害防止ガイドラインの要点 産保navi、2026年時点)。

なぜ85dBなのか。85dBという基準は、1日8時間のばく露を続けたときに騒音性難聴のリスクが顕在化し始める水準として、国際的にも広く採用されている。3dB上がるごとにエネルギーは2倍になるため、88dBなら半分の時間、91dBならさらに半分の時間で同等のばく露量に達する。「数字が少し高いだけ」と侮れない理由はここにある。

管理区分を運用に落とすときの注意点

区分は一度決めて終わりではない。設備更新・工程変更・生産量の増加で騒音は変わる。区分が変わるトリガー(設備入替、レイアウト変更、苦情発生)をあらかじめ定義し、その都度測定し直す運用にしておくと、形骸化を防げる。


3. 個人ばく露測定の追加と作業環境測定との使い分け

個人ばく露測定とは、作業者の身体(耳の近く)に小型の測定器を装着し、勤務中に実際にさらされた騒音量を継続的に記録する測定方法である。改正ガイドラインで新たに測定方法として追加された(参考:騒音障害防止ガイドラインの改訂について 重松製作所、2026年時点)。

従来の作業環境測定は、作業場の特定地点にマイクを設置し、その場所の騒音レベルを評価する手法だ。固定された作業には適しているが、作業者が複数の機械を巡回したり、騒音源との距離が刻々と変わったりする現場では、実際のばく露量を取りこぼす死角があった。

両者の違いを整理する。

観点 作業環境測定(定点) 個人ばく露測定
測定対象 作業場の空間 作業者個人
適した作業 固定的・定位置作業 移動・巡回を伴う作業
把握できるもの 場所ごとの騒音分布 一人が実際に浴びた累積量
弱点 移動作業を捉えにくい 個人差・装着管理が必要

この二つは対立する手法ではなく、補完関係にある。レイアウト全体の騒音分布を作業環境測定で把握し、移動の多い職種や高ばく露が疑われる作業者には個人ばく露測定を重ねる——この組み合わせが、改正の意図に最も沿った運用だ。

作業環境測定の具体的な進め方や記録の整え方については、作業環境測定の実務で詳しく解説している。騒音はその対象作業の一つであり、測定計画の立案から評価までの流れは共通する。

測定結果を「次の一手」につなげる

測定で85dB超の作業が見つかったとき、報告書を綴じて終わりにしては意味がない。なぜその区域だけ高いのか、どの設備・作業時間帯が寄与しているのかを分解し、発生源対策と保護具対策の優先順位を決める。ここで原因を構造的に掘り下げておくと、限られた予算を効果の高い対策に集中できる。


4. JIS規格に基づく聴覚保護具の選定

聴覚保護具とは、耳栓やイヤーマフなど、騒音から鼓膜・内耳を保護するために装着する防音保護具のことである。改正ガイドラインでは、単に「着用させる」だけでなく、遮音値を目安として必要かつ十分な性能の保護具を選定することが明記された。

選定の基準として参照されるのが、JIS T 8161-1:2020(聴覚保護具 第1部:遮音値の主観的測定法)に基づいて測定された遮音値である(参考:騒音障害防止ガイドラインの改訂について 重松製作所、2026年時点)。製品に表示された遮音値を手がかりに、作業場の騒音レベルから十分に下げられるものを選ぶという考え方だ。

「過剰な遮音」も問題になる

注意したいのは、遮音値は高ければよいというものではない点である。遮音しすぎると、警報音・呼びかけ・機械の異常音まで聞こえなくなり、かえって別の災害リスクを生む。装着後の耳元での騒音が、おおむね安全な水準まで下がりつつ、必要な合図音は聞き取れる——この過不足のないバランスが選定の要になる。

選定にあたってのチェック観点を整理する。

  • 遮音値:作業場の騒音レベルから必要な減衰量を確保できるか
  • 作業適合性:イヤーマフは保護帽・保護メガネと干渉しないか、耳栓は粉じん・湿潤環境で衛生的に使えるか
  • コミュニケーション:警報・合図が聞き取れるか、必要なら通話機能付きを検討
  • 装着の確実性:正しく装着しないと表示遮音値は出ない。フィットテストや教育とセットで運用する

遮音値の高い保護具を買っても、正しく装着されなければ性能は出ない。「選定」と「装着管理」は一体で考える必要がある。

保護具は最後の砦である

聴覚保護具はあくまで発生源対策・伝播対策を講じてもなお残る騒音への、最終手段に位置づけられる。低騒音設備への更新、防音カバー、遮音壁といった環境側の対策を優先し、それでも残るばく露を保護具で補う——この順序を崩さないことが、改正の精神に沿った運用である。


5. 健康診断(聴力検査)の変更点

騒音作業の健康診断とは、騒音にさらされる業務に常時従事する労働者に対し、聴力の経過を定期的に確認するために行う特殊健康診断である。改正ガイドラインでは、定期健康診断における選別聴力検査の音圧が見直された。

具体的には、4000Hz(高音域)の選別検査に用いる音圧が、従来の40dBから25dBおよび30dBへ引き下げられた(参考:改訂された騒音障害防止ガイドラインの要点 産保navi、2026年時点)。騒音性難聴は4000Hz付近の聴力低下から始まることが知られており、より小さな音圧で検査することで、初期の聴力低下をより早く拾えるようにした見直しである。

この変更が現場にもたらす意味は大きい。

  • 早期発見の感度が上がる:従来は見逃していた軽度の聴力低下が、有所見として浮かび上がる
  • 有所見者の増加に備える必要がある:検査が厳しくなる分、所見の出る人が増える可能性がある。増えたからといって職場の騒音が悪化したわけではなく、検出力が上がったと捉える
  • 事後措置の体制が問われる:有所見者に対する保護具の見直し・配置転換・再検査の流れを整えておく

健診はあくまで結果の確認であって、それ自体が予防策ではない。有所見が出たということは、どこかで管理が追いついていないサインだ。測定・区分・保護具の運用にさかのぼって点検する起点として、健診結果を活用したい。


6. 改正対応を「点検サイクル」として回す

騒音障害防止対策とは、測定・評価・改善・健康管理を継続的に回し続ける管理サイクルである。改正対応を一度きりのイベントで終わらせず、定常業務に組み込むことが定着の鍵になる。

改正内容を踏まえた標準的な対応フローは次のとおりだ。

  1. 対策管理者の選任:職長・ライン管理者を含め、現場をよく知る者を選任できるようになった。形だけの選任にせず、測定・保護具管理の実権を持たせる
  2. 測定の再設計:定点の作業環境測定に、移動作業向けの個人ばく露測定を組み合わせる
  3. 管理区分の判定:85dB・90dBの基準で区分し、発生源対策と保護具対策の優先度を決める
  4. 保護具の選定見直し:JIS規格の遮音値を目安に、過不足のない保護具へ更新し、装着教育を行う
  5. 健康診断と事後措置:新基準の聴力検査で経過を追い、有所見者には保護具・配置を見直す
  6. 記録とトリガー管理:設備更新・苦情発生などのトリガーで再測定し、サイクルを回し続ける

このサイクルのなかで最も形骸化しやすいのが、測定結果や健診所見が出たあとの「なぜ」の追究である。85dB超が出た区域、有所見が出た作業者——その背景には、設備の老朽化、保護具のミスマッチ、作業手順の逸脱といった複数の要因が絡む。表面の対症療法で終わらせず、根本原因まで掘り下げて初めて、翌年の所見を減らせる。


騒音の苦情や聴力の有所見が出たとき、「保護具を配り直す」で終わっていないか。

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よくある質問(FAQ)

Q. 85dB未満なら何も対策しなくてよいのですか?

85dB未満は直ちに改善措置を要する管理区分ではないが、対策不要という意味ではない。騒音レベルが変動する作業や、長時間ばく露が想定される作業では、監視を継続し、必要に応じて測定を繰り返すことが望ましい。区分の境界付近では、設備更新や生産量増加で容易に85dBを超える点に注意したい。

Q. 個人ばく露測定は全員に実施しなければなりませんか?

全作業者への一律実施が求められるわけではない。移動・巡回を伴う作業や、定点測定では実態を捉えにくい職種を中心に、高ばく露が疑われる作業者へ重点的に実施するのが現実的な運用である。作業環境測定で全体の騒音分布を押さえたうえで、個人ばく露測定を補完的に重ねる組み合わせが効果的だ。

Q. 遮音値が高い聴覚保護具を選べば間違いないですか?

遮音値は高ければよいというものではない。過剰に遮音すると警報音や合図、機械の異常音まで聞こえなくなり、別の災害リスクを招く。作業場の騒音レベルから必要な減衰量を確保しつつ、必要な音は聞き取れる過不足のないバランスで選ぶことが重要である。

Q. 健診の聴力検査が厳しくなって有所見者が増えました。職場が悪化したのですか?

必ずしも職場環境の悪化を意味しない。4000Hzの検査音圧が40dBから25dB・30dBへ引き下げられたことで検出力が上がり、従来は拾えなかった初期の聴力低下が有所見として現れるようになったためである。重要なのは、有所見者に対する保護具の見直しや配置の検討といった事後措置を確実に行うことだ。

Q. 対策管理者は誰を選任すればよいですか?

改正後は、衛生管理者や安全衛生推進者に加え、ライン管理者や職長等も選任できるようになった。現場の作業実態と騒音源をよく把握している者を選び、測定・保護具管理・教育の実権を持たせることが、形だけの選任に終わらせないポイントである。


まとめ

2023年(令和5年4月)の騒音障害防止ガイドライン改正は、「保護具を配る」段階から「正しく測り、区分し、過不足なく保護し、確実に経過観察する」段階へと、求められる管理の水準を引き上げた。

本記事の要点を整理する。

  • 改正の全体像:測定方法の追加、対策管理者の拡大、保護具選定の明確化、健診の聴力検査見直しが4本柱
  • 85dB管理区分:85dB以上は発生源対策を始めるライン。3dBでばく露エネルギーは2倍になる
  • 個人ばく露測定:定点の作業環境測定を補完し、移動作業の死角を埋める
  • 聴覚保護具の選定:JIS規格の遮音値を目安に、過不足のないバランスで選び、装着管理とセットで運用
  • 健康診断:4000Hzの検査音圧引き下げで早期発見の感度が向上。事後措置の体制が問われる

改正対応で最も差がつくのは、測定結果や健診所見が出たあとの「なぜ」の追究である。表面の対症療法で終わらせず、環境・設備・管理にまたがる根本原因まで掘り下げる仕組みを整えたい場合は、WhyTrace Plusをぜひお試しいただきたい。


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國分 良太

著者

國分 良太

制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門

製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。

※ 本サイトは所属企業とは関係のない個人活動です。記載の見解は筆者個人のものです。

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